大沼の朝

 しとしととテントのフライシートを打つ雨音で目覚めたのが午前6時。大沼の朝は小糠雨。雨というより空気中の霧が結露して滴(しずく)になったような感じだ。自転車で大沼一周をやってみたかったが、マドカが風邪をひくと厄介なので断念。昨日は沼の周回路で多くのチャリダーとすれ違った。チャリで走るには大沼は道内でも屈指のポイントだろう。チャリダー、ライダーたちは連泊して晴れを待つそうである。
 朝食の準備やキャンピング道具の撤収に3時間もかかった。オートバイなら30分もかからない。クルマは荷物がたくさん積める分、あれもほしいこれもほしいと贅沢になって、けっきょく何をやるにもたいへんになる。セダンのインプレッサは積載量が小さいから、まだたいしたことないが、これがワゴンやワンボックスカーに乗ったら、一日のほとんどを設営と撤収に費やさなければならないようになりそうで怖い。
 とはいっても、連泊するようなのんびりの旅なら、設営と撤収にどれだけ時間がかかっても、美しい時間の使い方だと思う。昨晩ハンゴウで炊いた飯の残りを使ってマドカがおにぎりを作ってくれた。ごま塩だけのおにぎりだが、霧に白く溶け込んだ大沼を眺めながらの思い出深い朝飯だった。
 昨晩、いっしょに酒盛りをした讃岐ライダーとマドカはすっかり打ちとけ、こっちが大汗をかいている撤収作業のあいだ中、かなり派手に騒いで遊んでいた。50歳近いのに漫画にでてきそうな人懐っこい四国のおっちゃんと、濃密にじゃれ合っている光景は、なんとも北海道であるなあという気がした。おっちゃんはマドカのことを「隊長」と呼んでいた。