スーパーで毛ガニを買って漁港で食う

 讃岐ライダーと別れを惜しみつつ、というのは嘘で、もう何かと世話をやいてくれたり、あれこれ話をしてくるのにうんざりしてきて、このへんはまだ俺が旅人になりきっていないせいであるのだが、
「はいはい、ほんじゃ、またどっかで会えるでしょ。さいなら」
 と切り口上でキャンプ場を発った。なんという冷たい態度、しらふの俺は人づきあいを避けたがる関東マンション族になってしまった。昨晩飲んだときは、しつこいぐらいにからむ俺に、讃岐ライダーの方がちょっと引き気味だったが。
 仕事と執筆をすべく、このへんで唯一インターネット圏内である大沼公園駅前の駐車場に。マドカは駅前のベンチで絵日記の執筆。すると、またしても讃岐ライダーが登場。オートバイを横付けしてきて、
「やあ、見っけ〜」
 やれやれ。マドカをあてがっておき仕事をする。
 彼はいっしょにクルマに乗っていきたいと言うから、トランクでええなら、と真顔でこたえると、
「ほじゃ、トランク見せて」
 本気で人懐っこいおっちゃんである。
「ほんまに入るん?」
「うーん、やっぱ狭いなあ」
「生きたまま入るんはつらいやろね」
「まぁたぁ〜、こわいことゆうてぇ」
 駅を発つとき、彼はオートバイで伴走しながら大手を振って見送ってくれた。
 行き先も決めず、とりあえず海を右手に見ながら北上する。途中、いかにもヂモト!という感じのスーパーに寄った。
 魚介類が半端じゃなく安い。朝イカ50匹で千円。食いきれん。毛ガニ2匹で八百円。食える。イカは刺し身で買った。しょうゆも買った。
 近くの漁港に行き、インプレッサを風よけにして食った。カニを野人のように食った。カニというものは外で食うとなんとも野蛮な味がある。カラスや虫どもが、俺たちの食い散らかしたカニの残骸を遠巻きに狙っている。地元民も、何やっとんやあいつら、ってな感じで遠巻きに見ている。
 手がべたべただが、水がない。イカ飯をカセットコンロでボイルしたかったが、やはり水がない。漁港の海水を使おうかと思ったが、半端じゃなくきたない。巨大なヒトデがたくさん死んでいる。それでもマドカは大喜びだった。カニくさい手でステアリングを握り、出発。