ビバーク地を日本海側に変更

 午後3時近い。ビバーク地を探すが、雨が本降りになってきて、とてもテント設営の状態ではない。雨を避けて日本海側に向かうことにした。
 10年前から使っている「二輪車ツーリングマップル北海道」に「雷電キャンプ場」というのが載っていた。雷電国道は一度通ったことがあったが、印象に強く残る荒々しい景観でありながら、観光化されていないところがよかった。
 日本海側に出ると晴れ間がでた。10年前と違って、断崖を縫うように走る道のほとんどは閉鎖され、延々とつづく高規格トンネルにとって替わられていた。交通量は少なく、ときどき気に入った海岸にクルマを停めて遊んだ。人は誰もいないのに、ヒトデがたくさんいた。生きているヒトデは、マドカも俺もはじめて見る。
 途中、すごく気になる店があって、思わず入った。
 ウニ丼2200円。アタリだ。漁師であり釣り船屋もやっている店主が、朝獲ってきたウニをだしている店。ウニ・アワビ丼を注文。2500円だが、ウニもアワビもたっぷり。みそ汁だってホタテ貝が入っている。マドカはイクラ丼(1500円)。イクラが多すぎると言って文句を言っていた。まったくガキである。また、納豆巻きを食いたいとか言いだしても困るので、イクラの消費を手伝ってやった。
 店主と話していると、困ったことに雷電キャンプ場はトンネル工事の影響で閉鎖だという。トンネル予定地の真上にキャンプ場があったらしい。もう少し先の岩内まで行けばキャンプ場もあるということで、北上をつづけた。
 岩内は雷電のすぐ先だった。マリンビューというキャンプ場は、岩内市街地から5kmほど山をのぼったところにあった。施設が立派すぎるし、4500円という利用料はいくらなんでも高すぎる。
「台風が来ているので、無理をしないで、このホールの中で寝てくれてもいいですから。シャワーもありますよ」
「ありゃりゃん、台風きてるんですか?」
 高校のときの初北海道旅行にはじまって、これで3度目だ。俺が北海道に行くと、どうも台風の方が放っておいてくれないらしい。
「どのタイプになさいますか?」
「安いやつ」
 といいつつ、日が暮れはじめていて、テント設営と夕食準備の時間がない。クルマのすぐ横にテントを張れるタイプを選んだ。
「電源つきと電源なしとありますが」
「電源って、何に使うの?」
「電子レンジとか、トースターとか。冷蔵庫をお持ちになる方もいらっしゃいますね」
 チャリダーとライダーが多い無料の大沼のキャンプ場とはえらい違いだ。どんなやつが利用するんだろうと思いながらクルマのナンバーを見ていくと、どれも札幌ナンバーばかり。つまり地元人のレジャー御用達ってわけだ。それにしても道外ナンバーは俺だけというのも妙だし、彼らのテントやタープを見ていると一番奥の自分のテントが犬小屋に見える。大沼で使ったテントは今日のやつよりひとまわり小さかったが、立派な家に見えた。(強風で10年来のバイク用テントは、設営中に壊れてしまったのだ。安物の予備テントを持ってきていてよかった)
 道外からやって来る人間には二種類ある。金持ちと時間持ち。それぞれ魅力がある。互いに互いの持っていないものはなかなか手に入らないというところがよい。思うに、ここのキャンプ場のような場所は、この二種類の道外旅行者のニーズのいずれにもあてはまらない。金持ちは宿を予約するし、時間持ちは無料の野営場を探す。いずれでもない俺はなんだ? 金もないが時間もない。まあ、気合と愛があるかな。ほんとか。
 日が暮れると沖に漁火が輝き、湾のかたちにまるく切り取られた市街の夜景のみごとさに息を飲んだ。ぼやぁっとしていると雨が降りだした。けっきょく個室の炊事棟に酒や調理器具をもちこんで2時間ほどすごした。台風の影響で、雨がますますひどくなってきたので早々に寝た。
●走行205km
●食ったもの:オニギリ(ハンゴウ炊き)、納豆巻(コンビニ)、カレー(レトルト。ライスはハンゴウ炊き)、ウニアワビ丼(マドカはイクラ丼)
●ブラッシュアップ項目:ハンズフリーのマグライト、ハードタイプのウォータータンク、炭焼きコンロ、子ども用サンダル