午前4時45分起床。雨が強く降っている。
雨の撤収は悲惨だ。マドカをインプレッサに避難させ、ひとりで片づける。手伝ってもらってもすぐに遊びはじめて役にたたないと思っていたが、やはりひとりでやるとけっこうたいへんだと分かった。マドカは北海道に来てから手伝いを頼むと、いつも「はい!」と返事が気持ちいい。お父さんの中が戦時体制ということが子どもながら分かるのだろう。
風呂には入れないし、雨で体は冷えるし、どろどろで水びたしのテント類を無理矢理つめこむとクルマに入りきらず何度もやり直し。
けっきょく居住空間を犠牲にして、めちゃめちゃな積み込みをして無理矢理ドアを閉めた。
終始、無言になりがちな俺。マドカにも厳しくあたりはじめている。彼女はあいかわらず上機嫌にふんふんと鼻歌を唄いながら、何か小さな発見があるたびに笑顔がはじけんばかりだ。どれだけこの笑顔に救われる気がしただろう。
今回の冒険旅行がはじまる前は、マドカが早々にネを上げると予想していた。しかしネを上げているのは俺の方だった。スマイル、スマイルと思っても、口数がどんどん少なくなっていく。雨は降りつづけ、ルーフの上の自転車は雨に打たれつづけ。
マドカはどうしてこんなに元気なんだろう? 強いやつではない。炊事場でハンゴウの頑固な焦げ付きと格闘していて10分ほどテントを離れたときも、もどったらもう泣いている。親がついていれば彼女は無敵なんだ、と気づいたとき、俺はもっと強くならなあかんと心から思った。強くならなあかんという気持ちが次への勇気になった。
しかし車内が汗臭い。着替えもしていないし、ふたりの臭いがクルマにしみついてしまったのか。ふたりで、くさいくさい、と騒ぎながら、
「おとーさんでしょ」
「いや、マドカだ」
「おとーさんだよ」
そんな小さなやりとりでも、彼女の笑顔はほんとうに輝いている。