股間に突き立てられたメガネ

 オホーツク紋別空港に向かう道で、上空を小型のジェット旅客機が追い抜いていった。あれにワイフが乗っているはずだ。マドカとはしゃぎながら飛行機を追っかけた。
 天気予報では雨だと言っていたのに、素晴らしい快晴。ワイフは昔から晴れ女である。
 空港からさっそうと登場したワイフに、マドカが走りよっていく。ふたりとも、ほんとうにうれしそうだった。俺は道産浜っ子ライダーとの出会いについて話した。
 ちょうどそのとき、爆音とともに赤いZX12Rが登場。ワイフもたった今俺から話を聞いたばかりだったので、本物が見れてうれしそうだった。
「メガネの件、ほんとうにすみませんでした」と彼。
「メガネ?」
 てっきり昨晩あたり、彼が酔っぱらって俺のメガネを下敷きにして眠ってしまったとか、そんなことかなと考えてみたが、べつだんメガネが壊れているふうでもない。彼は、ほんとうに失礼をしました、をくり返している。意味が分からん。
「あ、ぼくのメガネのことです。トイレで目が覚めたら、差し込んであったんです。ここに」
 彼はズボンのジッパーを指した。
「あの、厳しい戒めかと思いまして」
 社会の窓に突き立てられたメガネ。それを俺からのマフィアめいた警告のサインととったらしい。またもや俺は大爆笑してしまった。
「うーん、ごめん。ぜんぜん覚えとらんわ」
 かの女性がやったとは思えないし、やっぱり俺が酔っぱらっていたずらしたんだろうか。確かに若いころは、寝ている人によくいたずらをして顰蹙を買っていたものだ。それなのに「戒め」とは! 心が洗われるような気持ちになった。道産浜っ子ライダー、この広大な大地のように心の大きなやつだ。