二日連続箱根アタック

cippillo2005-09-04

 昨晩はうちの隣の隣にあるスペイン料理屋に行った。
 小田原に引っ越したとき、横浜に50年近く住んでいる超食通、女通の社長であり友人のZ氏からメールがあり、小田原で最高の店といえばこことおしえてくれたのが、じつはうちの隣の隣だったのだ。ちなみに隣の隣の隣、つまりうちの隣には創業400年の定食屋がある。
 店のマスターは小田原生まれのスペイン育ち。スペイン語を話す小田原人。ワイフがイタリア語をまじえながら、店主といろいろ何をどう食うべきかについて入念な打ち合わせをしている。俺にはメニューがちんぷんかんぷんなので、ワイフにすべてを一任した。しかしイタリア語でいいのかと訊くと、
「スペイン語とイタリア語はおんなじようなもんだから」と、かかかと笑うワイフ。そんなものか。
 マスターの話では、日本で最初にスペイン料理を披瀝したのはこの店だとか。30年やっているという。ワイフが東京で有名なスペイン料理屋の名前を言うと、彼はかかかと笑い、
「スペインじゃ、食い物屋はぜんぶ厳格に格付けされててね、五本フォーク(ミシュランでいうところの五つ星みたいなもんらしい)が最高、これがいわゆるレストラント(不思議な発音で言うマスター。おそらくスペイン訛りなのだろう)、お客さんが言ってる店はオードブルしか出せない格ですよ」
 そして、かかかと笑う店主。ワイフも合わせて、かかか、と笑っている。
 俺はふたりに訊ねた。
「つまり、おでん屋みたいなもん?」
「そうそう、おでん屋で懐石料理だすとお客さん、怒るでしょ。スペインじゃそれが徹底して厳しいの」
「で、ここはレストラントなんだ」
 かかかとマスターは笑った。
 料理は文句なしに美味かった。スペインの料理は俺に合う。シンプルでさっぱりだ。ビールを飲んだあとに、ワインを注文。
「お客さん、三杯以上飲むなら一本とった方が得だよ」
「んじゃ、ボトルで」
 ぐびぐびっと一本開いちゃったので、おかわりを頼むと、マスターはカラビンを持ち上げて、ありゃ、と言った。
 自転車乗りの聖典との噂の『茄子アンダルシア』に出てくる茄子の酢づけがかねがね食ってみたかったので、訊いてみると、スペイン人はキュキュは食わないと言う。キュキュというのは茄子のことだ。
「でも映画じゃ、これがないとはじまらんと言ってたんだけど。アンダルシアの結婚式で」
「アンダルシアは田舎だから、まあ、そういうこともあるんでしょ」
 まっとうなスペイン人は嫌いでも、俺はやっぱりアンダルシアの茄子の酢づけを食ってみたかったが、マスターは邪道と決めつけている。考えてみれば俺はスペインのチャリに乗っているし、レーシングスーツもオレンジ一色のスペイン純正。レーシングスーツに印刷されているスペイン企業の名前を言ってみたが、マスターはどれも知らなかった。それに俺が自転車の話に振ろうとすると、微妙にはぐらかされる。
 じつは小田原市は競輪の収益で潤っているが、地元の人たちはあまり快く思っていないらしい。しかし競輪の収益がないと困るので表立っては異論を唱えないが、「自転車」という言葉がでると座がシラーっとなる。
 そういえば土曜日に都内に出勤したワイフが、電車に自転車を積んで来る人たちをたくさん見たという。てっきり小田原は自転車が盛んなのかと思っていたが、どうも多くは箱根をめざして外から来ているようだ。
 店が終わったあと、ワイフと娘といっしょに海に行った。台風が近づいているせいで波が高い。すわりこんで線香花火をやっていると、とつぜんでかい波に襲われ、ワイフと娘が水没。俺はなぜか両耳に線香花火をはさんでひとり逃げだしていて無事。のちに娘とワイフのあいだでは、俺の耳にはさまれた線香花火がなぜ落ちなかったのかが語り草となりやがて伝説となる。ほどなく、もうひとつの知らない家族もいっしょになって浜辺で波逃げボールゲームをやった。みんな全身ずぶ濡れ、青春家族ゲームである。海水浴場用の水道で、娘にパンツの中に入った砂を落とすように言ったら、横でワイフまでそうしていた。完全な酔っ払いである。
 一、二時間も遊んだだろうか、深夜12時に帰宅。
 五時起床で五時半、二日目の箱根に向けてORBEAオルカ号にて出立。今日こそ芦ノ湖を拝む。
 旧道箱根口のセブンイレブンから計測を開始し、途中、七曲り峠で四輪の走り屋集団のドリフトにもまれながらも熱い声援を受け、43分で峠の茶屋を通過。53分で芦ノ湖セブンイレブン着。
 帰途のダウンヒル、最高速度62.5キロを記録するも走り屋にブッチぎられた。下りの峠で、なんでチャリがクルマなんぞに負けるんやとムキになって、信号で追いつくごとに何度もアタックしたが、最後には「お遊びもオワリよん」とばかりにGTRにチョイ本気を出されて、あっという間に消されてしまった。
 どうもクルマを侮っていたが、突っ込みも、コーナリング速度も、もちろんストレートの加速も、すべてにおいて勝機を見いだすことはできなかった。家に帰ってタイヤを見ると、飛び散ったゴムかすがダマダマになってタイヤにへばりついていた。ちょうど250キロでモテギサーキットのダウンヒルで突っ込みブレーキをやったときのオートバイのフロントタイヤにできるダマダマを5分の1サイズにした感じだ。速度が5分の1だからサイズも5分の1か。こんな阿呆なことをやっていると、タイヤとブレーキパッドの消耗はそうとうなものになりそうだ。
 このあと、ドカティでもう一回箱根を往還してこようとしたが、カバーを開けてびっくり。先週の台風の影響か、ドカティのエンジン、クラッチカバーが白錆だらけ。タンク、カウルには白く塩が浮いている。海岸の家、号泣。
 クラッチカバーはバイク屋も卒倒する完全開放の穴開きなので、中のクラッチプレートやスプリングまで錆び錆び。泣きそうになりながら、というより泣きながらメンテナンス。クラッチカバーをふつうの密閉タイプに戻そうかと一瞬迷ったが、退廃的ロココの精神、このピカピカリンの田舎成金趣味の象徴たる穴開きクラッチカバーをやめるぐらいならドカティを降りた方がよい。腐食のあとがケロイドのように残るが、なんとか見れる姿になったドカティをだそうとして、ワイフに買ってもらったばかりのブーツがないことを発見。一度も使ってないのに、いくら探しても見つからない。引越前にはあったから、引越のどたばたで消えてしまったらしい。出走をあきらめ、家族とインプレッサで小田原市民がみんな買い物に行くという郊外の巨大ショッピングモール「ダイナシティ」に行った。ここにスポーツクラブがあったので無料体験入場し、1.8kmをイッキに泳いだ。しかし最後の最後で65歳ぐらいのクイックターンのおじいちゃんに優雅に抜かれた。
 熱い週末であった。
 しっかしドカティ、なんとかしないとね。
 
<チャリ>
●走行:39km
●登坂高度:820m
<スウィム>
●1.8km