鍛練ではなくメンテナンス

 台風で大荒れの一日だった。
 午前中仕事をしたあと、ダイドースポーツクラブ通い二日目。スウィム1.5km。
 スポーツクラブはせこくてせちがらい健康オタク筋肉オタクがたくさん集結するので嫌いだったが、小田原の人たちはせこくもせちがらくもなくマナーもよくて驚いた。都会近郊のスポーツクラブには、どことなくギスギスした印象をもっていたが、あれは熾烈な安売り合戦も一因にあったんだろう。ここはなんとなく、ゆとりを感じるクラブである。みんな遊びに来ているような雰囲気で、せこい目標にむけて、せちがらくせっせこと鍛練するなんて馬鹿らしくなってくる。あんじょうよろしいなぁというロココな精神。ただしそこはロココ、安売りもしないから財布はかなりつらいが。
 小田原のロココな空気は、じつに今の俺の気分にしっくりくる。ここに来る前、プールでせこい喧嘩をしてから、めっきり鍛練というものが馬鹿らしくなっていたが、こうして無目標でうらうらと泳ぎ、走り、疲れたら歩いて、歩くのもいやになったら適当にうまそうな店に入ってビールを飲んで・・とやっていれば、じつに、よろしなぁ、である。
 つまり鍛練でなく、メンテナンス。目標が諸悪の根源で、目標があるから人はセコくなるのであって、目標でなく大志ぐらいならいいのだろうけど、年齢をかさねてくるとそれもなかなか難しいものがあり、ここはひとつ、目標を捨てて飲みに行こう、を標語に適当にメンテナンス。
 ところがです。無目的無目標にまかせて箱根を二日連続でチャリ登坂したり、頭のおかしくなったアロワナみたいに延々と短水路をぐるぐる往復して泳いだり、うらうらと小田原の淑女らとバドミントンに興じたり、そんなことをしているうちに、体中が筋肉痛にやられてしまい、イスから立つのにも、首をまわすのも億劫で、アクセルを踏んでいるだけでふくらはぎを攣(つ)るわのナサケない状況。おっかしいなぁ。今年は12時間耐久チャリレースで走っても、3km4km泳いでも筋肉痛などなかったのに。
 要するに、これまでやってきた鍛練というものは、狭い了見に縛られて、かえって人間の可能性とパワーのほんの一部分しか稼働させずに自己満悦に集束してしまっていたようである。しなやかで、必要なときに馬力がでるエンジンを得るためにも、日々、うらうらとメンテナンスしましょう。
 とはいっても、台風一過。
 またしても塩まみれになった窓ガラス、オートバイ、チャリらを、甘くせつなくメンテナンスしなければ。ごちごちの体の方はアロマヨーガでもやらせてみるとしよう。