15%勾配に敗北

 ワイフと娘を送りだしたあと、始業までのわずかな時間を使って、GAAP(ガープ)*1にまたがり東海道へと滑りだす。
 登坂が目的だが、人生は重荷を背負って遠き道のりの家康の言葉に従い、28-300mmデジタルカメラとナビゲーションシステムを装備して走った。
 当初は真鶴をめざしたが、途中、石橋山古戦場跡という古ぼけた看板の魅惑に誘われ、木々のトンネルのような勾配15%の細道をのぼる。27段変速とはいえ、装備重量20kg近い自転車をペダルを漕いで引っぱり上げるのはシッティングでは不可能。南東斜面を所狭しと埋めるみかん畑のあいだの細道を上りに上る。上っているうちに枝道の枝道に入り込み、みかん畑は消えて木々のトンネルの勾配15%がつづく。汗は滝、目はかすみ、朦朧(もうろう)とするが先は延々たる勾配。何度も挫折しそうになったが、そのたびに気合を入れ直し、やっぱり挫折しそうになり、気合を入れ、けっきょく挫折して足を着いた。すでに500m近くのぼっている。ナビゲーションはすでに道を見失い、役立たず。歩いて自転車を押して上る。やっと下り坂になったが勾配がきつすぎて怖い。ディスクブレーキがフェードしてきたのか、だんだんきかなくなってきたので、いったん調整、そしてまた下る。
 ところが工事中通行止めの看板で行く手を阻まれ、マジかよと思ってもどうしようもない。下りに下ってきた道を引き返すってことは、また上るわけですか。マジですか。こういうときはとりあえず思考停止、と、煙草を吸っていると、遠くで野犬の遠吠え。いやぁ、じつに森閑としとりますなぁなんて余裕なふりをしていると、だんだん犬の声が激しく近くなってくる。こりゃいかんと、煙草をくわえたままチャリに飛び乗り、登坂。時速5km。歩いた方が早いぞこれ。いざ野犬が迫ってきたら、反対向きになってカミカゼしかない。轢き殺す。ぜったい。チャンスは一回だけの片道燃料。小さいころから俺は犬が死ぬほど怖い。チワワも怖い。
 どうにか犬の声は小さくなり、やがて聞こえなくなった。ふう。と思ったら、急に足ががくがくになってきた。早く仕事にもどらねば、今日は平日である。携帯電話圏外。家に着いたのは11時前だった。

*1:天才自転車職人、宿野輪天堂が製作、クワハラバイクワークスが販売する日本の誇る20インチ折畳み自転車。走行インプレッションはこちら