苛烈なる脳は、苛酷な肉体に宿る

 風邪が治らぬ。午前中はだるだるの体で仕事。だが、ここ数日で勃発した文学的感興のおかげで、ドーパミンは細い流れとなって湧出しているようで、レーシングエンジンはぼへぼへと黒煙をだして不安定ながらも、アイドリングしている。ぼぼぼ、ぼへ、ぼぼぼぼ。
 昼過ぎ、娘が学校から帰ってくるまで1時間10分。体調は依然よくなかったが、ORBEAオルカ号にSEMASのジャージを着て箱根に向けて出撃。走りだしてすぐに足の重さを感じた。心拍もすぐ上がる。あまり無理をしないようにペースを調節しながら箱根旧道の入口へ。
 計測開始、しょっぱなから立ち漕ぎ。かなり足が弱っている。今日はやれるとこまでやって、無理なら引き返せばいいやと投げやりに、やや速めのペースで登坂。七曲がり峠を通過するころには、もうぐへぐへのへぼへぼ。
 なんとか峠の茶屋に到着。38分。前回より5分も早い。
 計測違いか?
 中高生向きの大江健三郎本で久々にブレーカーがオンになった頭に、肉体から生成された気合汁が還流し、油を熱したフライパンにシャキシャキの野菜を放りこんだときのような爽快さ。
 だが茶屋で煙草を吸っていると咳が止まらなくなった。痰のからまった不健康きわまる咳のマシンガンに、茶屋の内外にいた観光客らが注目する。激登後の自転車と光る玉の汗の健康さに、不穏な咳と煙草の煙の不健康さが不協和音となって、観光客を釘づけにしたようだ。煙草吸うんだ〜という声も聞こえる。そう、吸うのだよ。ガンガンとね。
 帰途、下り坂でファミリーカー2台を抜かし、家に着くとブレーキパッドがほとんどなくなっていた。最高速度65.6km/h。高速洗浄されたみたいに脳がすっきり。しかし以前、気合療法で風邪を大幅にこじらせたことがあるし、だいじょうぶだろうか。おとなしく大江のつづきを読んでいると、娘が帰ってきた。ただいまぁ。
 おかえりちゃん。