先ごろ、皇籍を離れて降嫁した清子さまが卒業文集に記したとして安西冬衛の一行詩が話題になった。
てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。(安西冬衛『春』)
皇籍を離れ決然と人界へひとり旅立つ気概を早くに先取していたかのようだ。しかしいくら決然とはいえ、人界にはもう少しよさそうな男もいそうな気もするが。魔王の執事みたいな顔つきの男に清らかな皇女が汚されるイメージにとらわれる。コレスポンデンス(照応)なのか、安西冬衛の詩に次のようなものもある。
犬
彼女は西蔵の公主を夢にみた
寝床は花のやうによごれてゐた
獣姦がモチーフにあると言われている。
また、安西冬衛にはこんな作品も。
月世界旅行
クラブ「ダイアナ」
ボックスへきたのは
森田という厚木育ちのホステスで
黒い絹靴下の留金の十仙銀貨(ダイム)が
三文オペラのモリタートを思わせた。
バー「ムーン」
カウンターでしけていたのは
上越線月夜野がふるさと
「だもん、月乃」と
繊い糸切歯を見せた
眼の隈蒼い織娘(おりこ)くずれの少女。
キャバレー「ルナ」
白いイブニングで現れたのは
福岡県浮羽町の生れで
歌劇リゴレットの詠唱
「風の中の羽根のように」エアリーな女。
麻布六本木、遠州浜松、そして小倉砂津と
遍歴した夜のツアーで垣間見た女の裏側
ぼくのアポロ計画・・月世界探検のリポートです
(安西冬衛『月世界旅行』)
コレスポンデンス! 偶然の一致。
てふてふの詩が話題になったとき、ちょうど安西冬衛の詩集をはじめて読んでいるときだった。
- 作者: 安西冬衛
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