東空の夕焼け、小田原の謎を解く

 小田原の冬は温暖である。
 この冬いちばんの寒波に列島が包まれた一週間。天気予報でさんざんおどされたほどには寒さを感じない。
 小田原の朝は海から来る。水平線から太陽がのぼり、穏やかな海原(かいげん)がうみだす幾千もの乱反射も加勢して、部屋の奥の奥まで光を届ける。恩寵のような光の分け前の長さは4mにも及び、部屋の中をなめるように少しずつ位置をずらしながら正午近くまでとどまっている。アルミサッシは40度近い熱をたくわえ、ガラスによる温室効果で午後も部屋は暖かい。
 残念ながら午後になると、ぴったりと身を寄せて建つ隣の巨大マンションの影に隠れて日ざしは途絶え、海面の乱反射も勢いが衰える。午後4時前にはもう暗くなりはじめる。建物のせいだと思い込んでいたが、先日、くもん帰りの娘を迎えに行って、東海道筋で30分ほど待ちぼうけをくらい立ちつくしていたときに真相を知った。
 小田原の西、太陽が静かに身を沈める位置に箱根の山が壁のようにそびえていた。3時40分、稜線の端に溶岩を溶かし込んだような光輪を一瞬みせて太陽が隠れた。4時半をすぎると、もう夜の帳(とばり)が降りている。はるか三浦半島の方角、東の空を見てあっと驚いた。どこかの山に反射した光が空を照射しているのか、東の空が茜に色づいていた。箱根から比較的離れたかの地では、たった今、日没なのだ。
 小田原の人たちは休日でさえかなり朝早くに動きだし、その分、夜も早い。かねがね感心していたことだったが、なるほど合点がいった。