そして、口を「ポカン」と開けて眺めるのです。
どうですか? ま、自分がアホになったような感じもしますが、からだ全体から力が抜け、リラックスできるはずです。何十年か前の自由な気分が一瞬蘇っているかもしれません。頭を占めていた「知性」がどこかへ消えてしまったようでしょう。
さ、口を開けたまま、絵を描く準備に入ることにしまーす。
(永沢まこと『絵を描く、ちょっと人生を変えてみる』講談社)
2006年は絵を描くことにした。
仕事上でも最近はイラストや挿し絵などの需要が多く、これまではイラストレーターさんに頼んでいたが、時代が時代だし、だんだん無理のきく人が少なくなってきた。これからも仕事はどんどんシビアになるだろうし、雑用係の僕としては最後は自分でやるしかないんだろうなと思いはじめていた。
もともと大学二年までは漫画家志望で高校の時から絵ばかり描いていたのだが、一度は挫折してやめた絵だし、もうやりたいとは思わなかったのだが、35歳から猛烈なスピードで動きはじめている人生退行が後押ししたかっこうになったのだろう。昨年末に親父が「わしゃあ絵をやる」と水彩画の通信講座をはじめたのを聞いて、じゃ、おれもやろ、と宣言し、
「ときどき成果を披瀝しあおう」
「おまえは何をやるんや?」
「ぼくは水墨画でしょうか」
水墨画と水彩画の対決元年である。
「異種格闘か。ケーワンみたいなもんやな」
水墨画といっても、僕がやろうと思っているのは、ちゃんとした水墨画じゃなくて、水墨画のスピリット。そもそも墨を使うかとか、どんなふうに書くかはまだ決めてないが、何も書かれないところ、つまり余白、行間を生かす光をとらえる目を養うのが大きな目的だ。カメラにも役立つだろうし、文章道にもよい脳内刺激になりそうな予感がしている。
さて2006年。
絵を描くといっても、まず何をやればいいのか?
図書館を漁っていたら、よき指南書に出会った。水墨画の本ではなく、正反対の線画(デッサン)中心の書であるが、スピリットが問題なのだ。
絵を描く、ちょっと人生を変えてみる (講談社ニューハードカバー)
- 作者: 永沢まこと
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口をポカンと開けるというのは、実際やってみると、たまらなくよい。過去に絵で挫折している者にとってみれば絵筆を持つだけでもすごく気構えてしまうのが、嘘のように脱力する。書いている途中でも、思い通りにいかず厭になって投げ出したくなったときも、口をポカンと開けて数秒待つと、ま、いっかという気になってつづけることができる。仕上がってみると、まあ、書き上げてよかったわな、にんげん、ステップバイステップじゃ、と、一応、達成感を得ている。
口をポカンと開けて待つ。
絵に限らず、いろいろなシチュエーションで使ってみているが、最高である。人が気合を入れているのをみたら、僕はこれをやって脱力しよう。