グレトな寒波を切り裂き、オートバイに乗って骨折顔面を撮影に行く

 天気予報で小田原の最低気温がマイナス2度。最高気温は5度。前日、前々日は雪が降った。
 これはマジでキツいですと思いつつ、ある目的のために1982年製の獣のようなレーシングオートバイで走りだした。
 目的。それは頬骨の折れた自分の顔を撮影する。阿呆くさいがほんとうだ。
 じつはここ1週間、骨折を心配した友人や取引先、親族らからさんざん怒られた。ブログの記事のせいで、てっきり顔がツギハギで包帯ぐるぐる巻きで入院していると、誤解させてしまったようである。
 手術は保留し、したがって入院もしていないことを一応ブログで報告したつもりであったが、骨が折れたまま遠泳しているとか、実家にチャリで帰ったとかを記していたために、
「あれってフィクションじゃなかったの?」
 とか、
「小説かと思った」
 と言われた。複数から同じことを言われたので少なからずショックであった。昔から、エッセー(つまりノンフィクション)を書くと「つくり話」だと思われ、小説を書くと「実際の話ですよね?」と言われる。文士として不本意であるが、心配をかけたままというのはよくない。
「とにかく文章ではだめだ。顔をだせ。写真」
 旧友にそう言われ、壊れた方の顔の写真を撮って載せることになった。手術だ、入院だ、と大風呂敷をひろげたわりには、またしても尻つぼみな展開、おまけにあちこちに心配をかけてしまい、芸のないシケヅラを出すのもしのびなく、せめて何か贖罪ができないかと、厳寒の顔写真撮影の旅に出ることにしたというわけ。
 いざ走りだしてみると、天気予報でさんざんビビらされていたわりには、それほど寒くない。さすがに真鶴の旧道のワインディングは凍結箇所もあったり、家々の屋根がまだ白い雪で覆われていたりしていたが、湯河原より先は快適な小春日和ツーリングであった。
 だいたい日本全土が記録的なグレト寒波にさんざんやられている真っ最中に、オートバイでワインディングに打ち興じることのできる環境というのもすごい。いかん、贖罪であった。
 そういえば昨日は雪が降りしきるなか、見渡すかぎりの海の表面からもうもうと湯気が立つのを見たばかりだ。どこを探してもこれほど壮大な露天風呂は見当たらないだろう。
 どうやらここいらは海水の温度が高く、海風が吹けば、海岸寄りは天気予報の数字には現れない温暖さがあるようだ。多くのライダーは予報を見てツーリングを中止したのか、オートバイ天国の伊豆にはめずらしく、ほとんど単車がいない。そのかわりに驚いたのが、チャリダーたちの熱さである。どれも出会うのはロードレーサー系ばかりだったが、確実に、オートバイの数の2倍以上はいた。
 伊東で携帯カメラで海をバックに撮影し、トンボ帰り。しかし家で確認してみると、写真はどれも失敗。あちゃー、意味なし。