サランラップでオペラ座の怪人

 顔面骨折で鼻腔がせばめられ、いつも蓄膿症のような状態。そのせいか疲れやすい。
 今日は特によくない。
 水泳も1.5kmでやめた。帰ってから娘をくもん塾に迎えに行ったら、外で30分以上も待たされ、どうやら風邪をひいてしまった。
 調子が悪いと、顔面左半分の痺れも悪化するようだ。いらいらして頬や鼻にやたら触る。触っても納得の得られる感触がなくよけい、いらつく。突っ張った感じが気になって集中できない。
 何をやっても手につかないので、慰めというか逆療法というか、この感じをできるだけ正確に言葉にしてみることにした。
 粘度の高いマスキングゾルを顔半分に塗って乾かした感じ。
 うん、いいですね。でも慰められず、かえってむずむずして、掻いても押してもこねくりまわしても、触っている感じがしない。いらいら。
 キチンに行った僕は、サランラップをべーっと引きだして正常な方の顔に貼りつけてみた。うまくつかなかったので、濡らして貼ったら、わりとうまくいった。サランラップの突っ張った感じは、なかなか正確に左半分の麻痺を再現している。
 上から触ってみる。
 お、似てる似てる。このいらいらする感じ、よく再現できている。
 左右とも痺れるとやっぱつらいですな。
 やさぐれた気持ちになってキチンを抜け出した僕は、勉強している娘の後ろに立ち、ラップに包まれた顔をぬっと突き出し、
「だーん、だだだだー、だだだだ、だーっ」
 と、オペラ座の怪人をやった。
 くちびるの上のサランラップが、ぶびびとビブラートして、いい感じだったが、娘は「どしたの?」と笑いもしなかった。僕も笑わず、もう一度、だーん、だだだだ、だーとオペラ座をやった。