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イナバウアー

 荒川静香の華麗なる悩殺技でありながら、新しい競技採点基準では得点対象外となってしまったイナバウアー。まずもって僕はこの言葉の感触に一撃悩殺された。
 なんといっても、イナバである。白兎(しろうさぎ)をイメージしない地方出身者はいないはずだ。どことなくなさけない感じがしつつも、胸を焦がす郷愁を誘うではないか。仰げば尊い。
 そしてなんといっても、バウアーである。郷愁なんか一瞬にして焦土にしてしまうほどの火力がある。今、僕は打ち合せ前で時間つぶししている満席のキャッフェにてこれを書いているが、キャフェーを飲むふりをしつつ腹に力をこめ、ざぼんほどの空気塊を吐き出すような感じで「バウアー!」と小さく言ってみた。
 するとどうか。都会にでて早くもやさぐれていた気力にみずみずしい感性が呼びもどされ、潤ったあたたかな気持ちになってくるではないか。
「バウアー!」
 両隣の客がヘッドホンをしていることをいいことに連発。
「バウアー!」
 調子にのって少し身をそらせてみる。むむ、すわっていてはだめだ。荒川静香のように移動しながらのけぞってこそイナバウアーの醍醐味。
 用足しにいくように見せかけ、誰もいないトワレで思いきり身を反らせてイナバウワー、ああ、キョモチエエワー。