ついに私も大ぢぬし

 チャリに乗ると、股が痛い。
 ここ2週間ぐらいか。痛い部位は陰嚢接合部と尻と右太ももの境界線上。
 これら3つが国ならば、領土紛争が耐えず、陰嚢が主権を主張すれば、尻は歴史問題を持ちだして反論、右太ももは同盟国の左太ももと右ふくらはぎの承認を得て、自国の領土としての既成事実づくりに懸命。
 そんな、股の火薬庫とでもいうべき微妙な場所に、血行不良が原因の鬱血が悪化した血瘤ができた。
 ぷくっとふくれた血瘤は、まさに絶海の孤島である。が、私はこれに対して目をつぶりたいし、領有権を主張したくもない。
 早やかにこの島が三国境界から消えてくれることを望むのみで、つまり、まことに遺憾なのである。
 もしこれが両足にできでもしたら、私のチャリ人生は終わりだぁと嘆きつつ、それでも右に腰をずらしたおかしなかっこうでチャリに乗りつづけた。
 さかだちしそうな新鋭機の過激なポジション(※写真)に対して、何年も使いまわした旧型のサドルを組み合わせたのが悪かったようだ。サドルを世界初の座面マグネシウムの癒し系アナトミックに換装してからは、ミネラル効果かマイナスイオン効果か、いやただ形状がよくなっただけだと思うが、みごと痛みはやわらいだ。しかし血瘤は残っている。すぐにでも再発準備ができている状態。まさに股の火薬庫。
 膝の問題が解消され、無理がきくようになったのが一因だ。どこかがよくなれば、どこかに負担がくる。人間の体はじつにおもしろい、などと感心している場合ではなくて、人間万事塞翁が馬の悪い方にスパイラルしている現況を脱さねばならない。
 しかし微妙な位置だけに、どの病院に行けばいいのか?
 皮膚科? 肛門科? 泌尿器科?
 またもや主権問題である。太ももは皮膚科を支持し、尻は肛門科、陰嚢は泌尿器科。
 悩みあぐねワイフに相談すると、
「ぷふっ」
 ぷふっ、って、それなんだ? それで終わりか。
 しかし夜が更け、妻子も寝静まり、おのずと解決した。
 尻の穴に不思議な異物感。風呂に入って触ると気持ちE・・じゃなくて、さらにでかい島が尻の穴の外縁部にあった。
 おおぉ、平成新山出現。またもや領土問題か? いや領土問題はもういい。
 風呂から上がり、インターネットの検索をかける。
 「尻」「血瘤」
 「肛門」「血瘤」
 出てきた結果は明確だった。
 いぼぢ。
 イボヂ。
 異母児じゃなくて、疣痔!
 ああああ〜、これが、学級崩壊の小学生もビビる、あの有名なイ・ボ・ヂ・かーーー!!!
「漢方で治す疣痔」というサイトを見つけた。
 いいぞ。
<遠く戦国時代、騎馬武者に多かった疣痔・・>という書きだし。
 いいぞ、まさに私だ。
<騎馬武者たちのために処方された漢方薬。>
 これです、これ!
<しかし現代においては、当時の騎馬武者とは胃腸などの頑健さが異なるため、現代風に調合をアレンジ。>
 余計なことすなー。騎馬武者のハードなやつをくれ〜、と、わめきつつ胃腸虚弱な私。
 有効な対策を講じるため、大脳前頭葉の召集した体内全体会において早朝まで熱い協議はつづけられたが、小脳勢力のぎりぎりまでの抵抗を押し切って、7月12日水曜日・・スウィム、ラン、バイクのすべての運行中止を決定。特効薬は翌日、届く予定。
 またもやデスクワークに没頭した一日となった。しかしふつうは、こうやって座りっぱなしなのが痔になるんじゃないか?
 しかしこれも大自然の神秘というもの、ダブルの痔持ち、大ぢぬしとなった今、ぢたばたしてもしかたない。というより、痛くて、ぢたばたできないし。
 夕方、週末の八尾トライアスロン(富山県)の参加証が郵便で届いた。
 私はちょっと汗をかいて、ぢっと封筒を見つめた。
 時間との戦い。
 最悪の場合、尻の穴にテーピングを処して走るという、ぢつに悲愴な姿を想像しないわけにはいかなかった。