能登の野営旅4

■8月16日(水) 輪島→能登空港→増穂浦
 輪島は朝市が有名だ。
 ご飯だけ持っていけば、試食としてもらえるものだけで贅沢な朝食になるという裏技(?)も聞いてはいたが、この日は午前11時に能登空港に到着するワイフを迎えに行くことになっていたし、撤収作業に時間を食われて、朝市には行けなかった。
 輪島の袖が浜キャンプ場は眺めと立地は最高だが、海に向かって背中側が垂直のコンクリートの壁になっており、上を道路が走っている。だからか風の抜けが悪く、夜も蒸し暑くてTシャツ1枚を汗でだめにしてしまった。
 また、周辺には自動販売機ひとつなく、飲み物ひとつにありつくにも、小さな山をひとつ越えなければならない。輪島温泉も歩くと距離がある。
 最大に悩まされたのは、強い陽ざしと、蟻。木陰が少なく、朝だというのに立っているとふらふらするほどの直射日光。数少ない木の周りも、蟻の巣があって悲惨なものだ。撤収作業をするために、いったんテントの場所を移したぐらい。
 野営はとにかく何をするにも時間と手間がかかる。何かをするためには何かを動かし、それを動かすために何かを動かす・・といったパズル。これに雨や風、そして蟻などの悪条件がかさなると、パズルは数段、難解なものになっていく。
 娘も重要な働き手である。働きはみごとなのだが、子どもなので、ついつい途中で道具を使って遊びはじめたり、段取りを間違えて余計手間が増えたりすることもある。軍隊的に厳しい指示を飛ばしているうちに、立ち尽くして、しくしく泣きはじめた。
 泣くがいい。お前がだるい顔で過ごしている日常のありがたさを思いしれ。ただ、手は止めるな。働きながら泣け。
 撤収作業で汗が猛然と噴出する。前年の北海道の野営旅は寒さと雨との戦いだったが、今回は正反対だ。
 うかうかしていると、汗のために着る物のカードが減っていく。
 最高の策は、服やパンツなど着ないことだと気がついた。作業時などトライアスロン専用のパンツ一丁とバンダナだけ。汗をかいたらそのまま泳いで、あとは身につけたまま乾燥させればいいし、ランニング、スウィム、チャリなどの修練もそのままこなせる。ただ、薄手の生地なので、トライパンツの上からかなり蚊に刺された。


 能登空港で無事、ワイフと合流。
 なんでも東京は雨だそうだ。
 能登半島先端の方向に向けて駒を進めたいところだったが、せっかく能登にやってきたワイフに最初ぐらいはいい思いをしてもらいたいということと、娘の強い要望もあって、前日と逆のルートをとって輪島からさらに増穂浦にもどった。
 娘にとっては増穂浦のキャンプ場は、北海道の経験も含めて文句なしの歴代ナンバーワンらしく、五つ星ならぬ「大天国(だいてんごく)」グレードだそうだ。
 確かにこれだけの好立地でありながら、近辺に広い駐車場のあるショッピングセンター、ホームセンター、コインランドリーがそろっているし、キャンプ場内にジュースの自販機程度はある。好立地と利便性とは相反する要素なだけに、うちのような軟弱初心者キャンパーにとっては最高のバランスをもった地である。(能登半島にはもっとすごい絶佳なキャンプ場もあるが、絶佳なほど玄人向である)
 また、2kmほどでスーパー銭湯級の設備の整った温泉(料金が高い。600円)、これとは別方角にやはり2kmほどで地元の人たちの憩いの場といった雰囲気の共同温泉浴場(料金が安い)もある。
 これで立地も絶佳、虫も少なく、風通しもよいのだから、娘の言うように大天国である。
 能登キャンプ初日のワイフにとっても大天国だったようだ。
 特に海には感動していて、
「生まれてはじめて、スキューバダイビングやってみたいと思った」
 海べりに住む家族なのに、全員が、ここ増穂浦の海の素晴らしさにノックアウトされた。
 1500メートルほど泳いだが、輪島のときと同じで、体のあちこちをクラゲに刺されて撤退。ワイフがこのクラゲの正体を発見。体長2センチほどの透明なクラゲだった。
 夕食は、地元の漁港で水揚げされたカワハギが安かったので、鍋料理にした。カワハギを生かせる料理ということに関して「鍋」しか思いつかなかった。
 ふつう真夏のキャンプ場で鍋なんてやるものなのか分からないが、アウトドアのレジャーというより避難生活、耐乏生活の修練なので、鍋断行である。鍋のダシはエバラ浅漬けのモトをもって代用したが、けっこううまかった。
 残った汁は、翌朝、冷えたご飯といっしょに雑炊にするために、とっておく。
 夜はワイフと満天の星を眺めながらランニングした。天の川が圧巻だった。どこからどう見ても、ミルキーウェイ。
 ワイフにおしえてもらって、さそり座ははじめて見た。アンタレスはやっぱり赤かった。

●この日の修練:スウィム1.5km、ラン4km
●この日の教訓:レトルト、缶詰類、煙草は多めに常備しておく