コバルトスズメ?

 静岡駅構内で、220キロで走行する新幹線へダイヴした31歳の会社員が死んだ朝、キャンプ用マットを持ったワイフは品川駅の手前で緊急停止した新幹線に一時間も閉じこめられていた。その日、だいじな会議の準備で、会社泊なのだと言っていた。
 おそらくワイフが都心の高層ビルで会議をしているころ、僕はロードレーサーのかっこうをして小田原漁港で煙草を吸いながら魚釣りをしていた。
 週末に富士スピードウェイでチャリ200キロ耐久レースがあるのだが、レーサーシューズのクリート(ペダルとシューズを固定するプラスチック製の部品)が摩耗して壊れてしまったので、急きょ交換。この1ヶ月以上のあいだ、左膝の痛みがとれず、クリートの角度を細かくセットしてやる必要があった。そこで、セッティングに使う4mmのアーレンキーと、なぜか釣り竿を持って走りだした。
 レーサーシューズをはいて海で釣りをするという経験は、おそらくほとんどの人は一生出会うことはないだろう。護岸からぶらぶら足を投げだして、小さなルアーやソフトベイトで壁ぎわを引いていると、小さなフグが追いかけてきて、興味深そうににらんでいた。
 手のひらほどのメジナもいたが反応なし。
 20センチほどの黒いヒレを持った群れが通りかかったので、セイゴ(スズキの子ども)か? と一瞬やる気がわき出たが、無反応。ボラだったのかもしれない。
 ちょっと大きめのカワハギも寄ってきた。が、あまり興味なさそうだった。通りかかっただけかもしれない。
 最後にぐんぐんに群れで追いかけてきたのが、きれいなメタリックブルーの小魚。昔、図鑑でよく見たコバルトスズメ? こんなところにいるのだろうか。小さなソフトベイトに最後まで興味津々の様子だった。が、やはり食いつくまでには至らず。
 30分ぐらいで竿をしまい、立てかけていたロードレーサーにまたがって帰った。
 水がきれいなときは、いろいろな魚が見えて楽しい。