足もとに幸あり。100円。

 台風なみに成長した低気圧のおかげで早朝から猛風吹き荒れ。おまけに気温が低い。
 フライの早朝練習はいったんあきらめ、午前中、午後とデスクワーク。
 夕方、風はあいかわらず強烈だったが、がまんしきれず開成フォレストに練習に行った。
 年末休暇がはじまったのか、かなり人が多い。しかもみんながみんな風上側にすごい密度で立っていて、それ以外の岸はがらがら。横風を受ける場所にポジショニングして、ゆったりキャストの練習。
 しかし風がひどくて、まるで練習にならない。
 ロングキャスティングはさっさとあきらめて、短距離ながら小さなスペースでキャストできるという「ロールキャスト」なるものを練習。これも風に飛ばされてうまくいかない。足もとにぽたっと落ちる。
 最近、開成ではアタリが渋くなってきたせいか、フライフィッシャーの数がぐんぐん増えている。この強風の中、みごとなループをつくって20ヤードも30ヤードも飛ばしている人たちの技術に見とれつつ、それでも昨日と違ってフライの人もぽつぽつしか釣れていない。
 足もとに糸を落とすだけの僕は、まるでどぶ川で糸を垂らしているやる気のないおっさんみたいである。
 しかしなぜか今日はこの、やる気のないおっさん釣りが大的中。入れ食い状態になった。
 そして7尾目に念願の大物ヒット。というか、間違えて、ぽとっと、ほんとのド足もとに落ちたやつに、がばっとバイトしてきたのだ。
 足もとでヒットしたのに10ヤード以上糸を引き出される。
 しまった。今日はきっと渋い釣りになると思って、5Xの細いティペットを入れてきてしまった。
 落ち着いて、昨晩眠りにつくとき執拗にイメージトレーニングした通りにドラグを調整し、5分近い格闘の末、取り込み成功。ディスクドラグの性能の高さを感じ入った。余裕の40センチオーバーのサクラマス
 11尾目、再び大物がヒット。しかしこれはさすがに切られた。
 ティペットを強靱なフロロ4Xに交換し、エッグフライを投入すると、30センチ強のブラウンをゲット。
 その後はエッグへの反応が渋かったので、マラブーの底層放置に切り替えると、効を奏して、17尾目に大物ゲット。7と17。ラッキーセブン。
 大物とのやりとりの成功イメージがついてきたのか、このあとは安定して大物とやりあえた。
 暗くなりはじめると、強風にもかかわらず表面への活性が高まってきたのか、蛍光イエローのウキにまで執拗にバイトしてくる。ウキをくわえてファイトしたやつだけでも5尾にも及ぶ。もちろん針がついていないので釣りあげることはできないが、ウキはボロボロになるし、ファイトをすると、針先までウキがずり落ちてしまい、いちいちウキ下を調整し直さなければならない。
 面倒くさくなってウキが毛針にくっついているという滅茶滅茶な状態で、足もとに投げを入れたところ、思惑通りヒット。この方法で大物1尾を含む3尾上げた。
 マスたちが水面を意識していることと、蛍光イエローのウキに食いついてくる状況を考えて、昨日使ってみてまったくダメだった100円フライを再登板させてみることにした。上州屋で100円売りされているだけあって、こいつはマラブーのくせにほとんど沈もうとしない。単調な黄色い色も安っぽくて、昨日の段階では捨てようかと思っていたものだ。
 この作戦が再び大爆発!
 もう投げる必要なんかぜんぜんない。流しそうめんみたいに足もとを通してみても、放置しても、何やっても食いついてくる。しかも、でかいしへんてこな毛がもわもわの黄色なので、来るやつ来るやつが、みな大物。
 周囲はフライ、ルアーともに、なぜか釣れていない。人がだんだん僕の近くに集まってきて、おのおの糸を入れはじめる。さっきまでびゅんびゅん遠投していたフライジャケットを着たおじさんも、僕の4メートル隣まで近づいてきて、足もと釣法を真似したりしている。が、ぜんぜん釣れない。焦りがひしと伝わってくる。
 こちらは糸を入れれば数秒で食ってくる。ただ、人が近すぎてケガをさせないよう慎重になったため、アワセの失敗が多くなった。
 43尾目にスーパーモンスターがヒット。ぎゃーっという叫び声のようなものすごい音を出してリールが逆回転する。あっという間に沖まで糸が伸び、そこで派手なジャンプ。反転してこっちに突進してくる。リールの出番。大径のリールはここちよくラインを巻き取り、テンションを逃がさない。4Xのフロロティペットだし、自信をもってのぞめた。
 近づいてきたかと思うと、またリールに叫びを上げさせて沖まで逃げる。右へ、左へ走りまわって、派手なことこの上ない。もしかしてイトウ? 体感10分でやっとランディングさせたのは、残念ながら51センチのレインボー。
 終了時間前だったが、このへんでやめようと思ったが、もう一投だけと思って糸を入れたら、またもや長丁場の大物バトルがはじまり、45センチのサクラマスをゲット。
 合計44尾。40センチオーバーの大物が8尾。大物のバラし率11.1パーセント。
 最後に今日一度も振っていないルアーもやっとこと思い、つけっぱなしの黒スプーンで数投。1gの極小スプーンだったし、なんせびゅうびゅうの向かい風なもんだから、糸がたわみ、まるで釣りにならなかったが、でもなんか来るような予感がしていたら、アタリが来たので引っこ抜いた。ら、20センチぐらいのかわいいマスが水面をすっ飛んできて、ぽとっと地面に落ちた。このかわいい45尾目で本日の竿納めとした。
 強風の中、しかも条件の悪い風下側でこのような結果を得られたことは、じつに人生的な教訓に満ちている。二番煎じを狙い真似をして近くでやった人たちが釣れていなかったのも、これまた意味深い。足もとで、しかも100円の上州屋フライが最高の結果をだしたことも、なんか考えさせられる。
 逆境がかさなるとき、案外、足もとに幸福はあるのかもしれない。あるいは100円ショップにも。