春休みの思い出捏造

 小田原での小学3年生活も終業し、春休みの娘。
 ひとつの区切れ目として、娘が大人になっても一生忘れぬ思い出を植えつけようと、早朝から夕方まで10時間にわたるマス釣りを敢行。
 開成フォレストスプリングに行くのは1ヶ月ぶり。うちから気軽にチャリで行ける距離にあるのだが、昨夏のプレオープン以来、人気爆発のこの釣り場は人的プレッシャーが強く、一時期、かなり水質が悪化、魚もコンディションが悪くなっていたので、ちょっと足が遠のいていた。
 子どもには気軽に釣れて、短時間で低料金、水質も良好な三島、すその近辺の釣り場が好都合だったが、
「開成は最近、ちょっと難しいかもよ」
 と言ってみたが、どうしても行きたいというので連れていった。
 ひさびさの開成は、立派なゲストハウスもグランドオープンし、水質もみごと改善。日中気温が上がったため、午後からはやや渋い状態になったものの、多様な魚たちとのファイトも素晴らしく、まちがいなく関東トップレベルの釣り場であった。
 ただ、1日券は親子で6000円。子どもといえども、気合を入れて釣りをしないと、しばく。釣れないから、とか、飽きちゃったとか、許さぬ。
「集中せいっ!」
 池に父の喝が何度も飛ぶ。
 途中、息抜きで縄跳びと読書を許可したぐらいで、朝食も昼食も釣りをしながらである。(しかし、娘はなぜ釣り場に縄跳びを持って行ったのか?)
 10時間の釣りを終え、午後5時に撤収したときには、ふたりともぐったり。
 この疲れ、何かに似ている、と思ったら、オートバイでのバトルツアー後の疲労感に酷似。
 フライキャスティングは神経を使うし、投げたら投げたで、手もとに伝わる感触に全身で集中するリトリーブ釣り。
 肉体疲労はさほどではないが、神経疲れがどっときた。
 夕日を浴びたクルマに、カゲロウがとまっているのを娘が発見した。見たことのないカゲロウだった。釣りの帰りに、きまって新しいカゲロウを見つける。彼女もフライマンのはしくれになったということか。
「10時間連続でやると、釣りもなかなかの苦行だね」
「ほんと、つらかったあ」
 春休みの忘れぬ思い出。トラウマともいうかもしれない。