氷雨の夜、箱根越えするチャリ幽霊を見た

 マラニックパック*1にルアータックル一式とフライタックル一式を装備した脱力スタイルのチャリ試験走行、および芦ノ湖沿岸のフライポイントの調査を兼ねて、今季初となる箱根越え。
 小田原出発時は桜満開で意気揚々。
 箱根旧道起点まで、獲物はいないかと、うらうらと走る。が、チャリは皆無。
 起点のコンビニで網を張って待つが、煙草3本吸っても、やはりチャリ皆無。
 あきらめて単独で登坂開始。
 ロードレーサーで登るときの1.5倍近い時間をかけて芦ノ湖着。軽量MTBにロードタイヤをはいたので、もうちょっと速いかと思っていたが、これじゃあ獲物を探してとか言ってる場合じゃなく、自分がいい獲物(カモ)である。
 脱力スタイルのマウンテンバイクが、ロードレーサーを抜く。遠ざかる背中にフライ竿とルアー竿。ウガー! なんたる破壊力! と、わざわざ見えるように装備したというのに。
「それ、落ちない?」と、出発時にワイフに言われた。
 中に入れようと思えば入るのだが、それでは意味がない。破壊力が命。鋭くトラウマを刻みつける腰くだけ。
「これ、ぼくのライフワークだから」
「要するに、見せるのがだいじなのね」と、あきれ顔でワイフが言った。
 オートバイのときから、やっていることが進歩していない。



 芦ノ湖からは、未踏の西岸道路に入った。フライフィッシングのおかっぱりポイントのここからは調査である。未舗装林道になってまもなく、ゲートで通行止め。いったんは引き返したが、マウンテンバイクなんだから行っちゃえ、とゲートに戻る。
 ゲート脇のすきまから入って見舗装路を進む。だんだん道幅が狭くなってきて、自転車一台が通れる幅になり、ガレガレに荒れてきた。右下は垂直の崖で芦ノ湖。もちろんガードレールなんてない。
 しかしエンドルフィン*2の作用か、チョイ高所恐怖癖のある自分が別人のように綱渡り的に激走。目がマジ三角。37歳中年男が、きゃーきゃー奇声を上げながら汗だく。
 ふと我に返り、この断崖、石でハンドルとられたらアウトじゃないですか。チャリ降りて押しましょうよ、初心者なんだから。
 ここからは湖周回西岸の半分ぐらいはチャリを押すか、かつぐかして歩いたような気がする。



 漁場調査結果。おかっぱりできそうな砂浜のワンドが3ケ所。うち1ケ所は通年禁漁区内にあったので、2ケ所をチェック。箱根湾の白浜と、湖尻湾内・深良水門近くの浜。しかし、おかっぱりでフライやっている人は1名のみ。しかもウェーダーでの立ち込み。チャリで乗りつけて岸からのフライでは、釣れなさそう。


●白浜(芦ノ湖


●湖尻のワンド(芦ノ湖


 芦ノ湖を離れたあとは、静岡県側にダイレクトに下山したかったのだが、チャリ通行禁止の有料道路に行く手を阻まれ、再び未舗装林道に入り込む。仙石原まで7km区間がダート。途中、マウンテンバイク一機とすれ違い挨拶。
 林道を抜けると、箱根裏街道(国道乙女峠)で御殿場方面に向かって再び登坂開始するが、つまらないので再び脇道に。この道、標高910mまでいっきに駆けのぼり、下り行程に入ったかと思いきや、またもやチャリ禁止の有料道路に阻まれる。打開ルートを探していると、ゴルフ場を突貫して抜けていくへんてこな道を発見。
 下り勾配ワインディング。クルマはいないしサーキット状態。コーナー手前で油圧ディスクブレーキがミューと鳴き、フロントサスがフルボトム。圧・伸のそれぞれ別個の減衰調整、イニシャル調整の他にロックアウトとか、なんかいろいろ調整機構のついているフルアジャスタブルサス。フルボトムしながら、奥の奥に最後の余力を残すプログレッシブ。オーリンズ倒立サスペンションを彷彿。かたや30万、かたや1万? 超お買い得。
 それにこのシマノの油圧ディスクブレーキ・・ミューの音の感じ、シルキーなタッチは、ブレムボのラジアルポンプマスター+モノブロック・レーシングキャリパーを彷彿。かたや100万、かたや1万? 超お買い得。
 ミューの音がいけない。フルボトムのあとのプログレッシブな余力がいけない。コーナーを抜けるたびに、またもや目が三角に。
 ぎりぎりまでブレーキを遅らせてフルボトム。
 タイヤを路面に押しつけ面圧を上げる。
 アウト側からスパっと車体を倒す。
 しかしブレーキレバーは離さない。クリッピングポイントまでは変形したタイヤの面圧を維持。
 クリップ手前から沈みこんだフロントサスのゆるやかな戻りを意識しながらブレーキを徐々に緩め、コーナー脱出にむけて右手のスロットルを、って、スロットルはなかった。
 コーナーの途中、視野の端でメーターをとらえると「6」の数字がちらっと見えた。60キロ台でコーナリング。急な下りのタイトコーナー。ナナハンなら40キロ台? いや、30キロ台かもしれない。ふと、恐怖が襲った。
 恐怖がリズムを狂わせたのか、次のコーナーで進入ブレーキングに失敗し、そのまままっすぐ道路の向こう側まで行ってしまった。反省。
 このあとは面圧を感じるのをやめて安全下山。
 静岡県側では、すその市のすそのフィッシングパークに立ち寄った。1時間ぐらいマス釣りをやろうかと思っていたが、休日で人が多かったのでやめにして、トイレだけ借りた。
 このあと沼津の門池へ。かつてはバスポンドとして有名だった池だ。池のまわりに桜が咲いていたが、釣り人はほとんどいなかった。
 さっそくルアーフィッシング。
 が、生体反応なし。竿をしまって煙草を吸っていると、バスらしき35センチぐらいの魚体がジャンプ。がぜんやる気になったところ、降りだした。雨が。
 時計は4時をまわっていたが、素直に帰るのもさびしく、なるべく国道1号線を使わないルートをとることにした。
 市街地、森林、高原野菜畑、と、へんな場所を抜けて走っているうちに雨が強くなってきた。
 国道1号線で芦ノ湖に着いたときは、あたりは真っ暗で気温6度の本降り。パンツ、くつしたもズブズブ。
 旧道で下れば早く帰れるが、あまりの寒さで手足の感覚が皆無。コントローラブルな油圧ディスクブレーキのおかげでブレーキに関しては問題ないが、体が硬直してまっすぐ走れない、前が見えないの状態での旧道は危険と判断。
 かなり遠まわりになるが国道1号で小田原まで下ることにした。この下山ルートのもうひとつの狙いは、標高差で120mほどの上りがあること。標高は870mになって気温は下がるが、上りをしゃかりきに進めば冷えきった体温をいったん戻せると踏んだ。
 が、やってみると凍えて泣いた。
 氷雨夜の箱根峠。全身ずぶ濡れで泣きながらチャリに乗っている幽霊を見たという噂がでたら、それは・・。


●走行距離:121km(うち約15km未舗装路)
●登坂高度積算:2310m
●フライポイント調査結果:成果なし
●試験走行結果:走行中リールから糸がこぼれる。対策必要。エアーポンプが見舗装路で脱落・紛失。ポンプはフレーム固定式にした方がよい。

*1:長距離ランニング用に開発されたバックパック

*2:脳内麻薬。厳しい修行によって自在にエンドルフィンを分泌できるのがバトルツアラーである