六本木での打合せにチャリで行く167km

 都内に出なければならない用事が入ると憂鬱である。
 まず電車がだめ。貧血で気分が悪くなるし、煙草を吸えないので回復できない。眩暈がして知らない駅で電車を降りようとしたところ気を失って倒れ、頬骨を折って救急車が1年前。車内でかがみこんだり、駅事務所で寝かせてもらったりは一度や二度ではない。
 電車、人が運転するクルマ、飛行機だめの三重苦。交通ヘレン・ケラー。唯一、新幹線の喫煙グリーン席はだいじょうぶである。しかし、それだと往復1万円もする。
 都内を歩いていると、空気があわないのか、人ごみに慣れていないのか、ほぼ毎回、体調を崩す。路上で煙草さえ吸えないので回復できない。体調不良は、ひどいと翌日まで引きずる。
 山手線東側の下町エリアは比較的だいじょうぶだが、苦手のトップは渋谷・六本木。大学1年と2年は渋谷で、その間は六本木でアルバイトもしていたが、まったくもって懐かしさもくそも感じない。
 六本木に2回目の打合せで行くことになった。
 1回目はクルマで行ったが、駐車場が面倒くさく、渋滞も馬鹿らしいのでNG。精神的に追い込まれていると、名案が噴出。
 そうだ、チャリで行こう。
 電車にも乗らず、人ごみの中も歩かず、おまけに都心で路上喫煙も可能(?)。車道をチャリで走りながらだったら都心でも路上で煙草吸えるんじゃないかと、法令の抜け穴。だってそれがダメなら窓開けてクルマの中で煙草吸ってる人もだめってことになっちゃうでしょう。(ほんとか?)
 小田原から平塚まではいつものように快調。しかし平塚〜茅ケ崎間は交通量と信号が増えてペースを阻まれ、さらに横浜〜都心間の幹線道は完全にクルマ中心の構造で、チャリにとって最悪の交通事情。帰路の国道246号もそうだったが、しょっちゅうインターチェンジとチャリ通行禁止の看板。
 インターチェンジでは強制的にチャリが60キロ道路の中央を走ることになり、命がけ。おまけにそういうところは歩道がないところが多く、エスケープもできない。歩行者やチャリが通ることはまったく想定されていないようだ。全力疾駆で合流車線のクルマの流れに乗りながら、左に寄るチャンスを伺うしかない。
 登坂も予想外に多かった。累計高度で1000mちょっと。つまり箱根を越えているのと変わらない。
 おまけに帰路は強烈な逆風に泣かされ、平地部でも時速10キロ台。
 1時間半の打合せのために、往復8時間30分。
 娘を迎えに行かねばならなかったので、家に寄らずくもんに直行。
 くもんに着いてチャリをおりたら、ほぼ同時に先生の携帯電話を操作しながら娘が表に出てきたので、おい、と声をかけたら、「わっ。おとうさん!」と、幽霊でも見たかのようにびっくりしていた。じっさい、ほとんど幽体離脱しかけていた。
 バラ色のはずの天才名案チャリ作戦だったが、これはこれで、なかなか死ぬ思いであった。

走行データ
全走行距離 167km
累計登坂高度 1002m
所要時間 8時間30分
使用機材 ルイガノ社製マウンテンバイク(GPSナビ、前後ライト、DHバー装備)