『真鶴』 川上弘美

 かたちあるものに欲情することは、少ない。少なくなった。
 よろこびにつながることもあるし、えぐられるような寂しさにゆきつくことも、そしてどんなところにもゆかず、ただそこにぽかりと浮かぶばかりのこともある。どちらにしてもそれを欲情と名づけただけのことである。

 川上弘美は、ここ数年、かなり好きな作家だ。妻も好きなようである。
 『真鶴』は、川上弘美の新境地の小説、と、日曜日の新聞に書いてあった。真鶴はうちの近くなので、ちょっとわくわくした。
 けれど読んでみると、確かに新境地であることは分かったし、あいかわらず読みやすい文章だったが、なぜだか響かなかった。遠くに行ってしまった感じだけした。
 村上春樹も、宮本輝も、むかしは好きだったのに、読まなくなってしまった。好きだったものが遠くなっていく感じはさびしい。旧境地のままなのは、作家としてはだめなことなのだろうか。


真鶴

真鶴