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『クローズド・ノート』雫井脩介

「人類は道具を使うことによって進化したのよ。それへのこだわりがなくなったら人類じゃないわよ」


 引用を駆使したタイプの小説である。そういえば今回芥川賞を受賞した作品も引用駆使タイプだそうだ。
 引越し先のアパートのクローゼットで見つけた、前の住人のものらしき一冊のノート。これが引用されるテキスト元。ノートは小学校の女性教師のもので、悩み傷つきながらも仕事に恋に前向きに生きていく姿が日記としてノートに記されている。それを読む女子大生もまた、いっしょに悩み傷つき勇気づけられながら生きていく。
 この美しい着想に、ヤラレタ! と思って読みはじめたが、残念ながら、展開と結末は完全に予想がつく。ひねりようもあった気がするが、ひねらなかったのが良かったのかもしれない。あとがきで、引用として使われているテキストが、創作ではなくホンモノのクローズド・ノート(現実に亡くなった女性教師の日記)であったことが記されていて、この「クローズド・ノート」は書かれるべくして書かれた物語だったのだなあと思わされた。
 冒頭に引用のセリフは、万年筆に対する深い造詣と蘊蓄が思い入れたっぷりに書かれている中にある。万年筆ネタだけで100ページ分ほどもあろうか。前半はストーリー展開と関係なく、ほとんど万年筆の話であるが、これがけっこう楽しめる。万年筆に興味のない者でも、きっと読み終えたあとに、万年筆が気になるようなるだろう。
 行定勲監督、沢尻エリカ、伊勢谷友介、竹内結子出演で映画化される。9月29日公開予定。


クローズド・ノート

クローズド・ノート