『クチュクチュバーン』吉村萬壱

砂煙が晴れ、巨女が倒れた瞬間に取ったM型開脚によって露わになったその性器は巨大な挽肉器として鋭い刃がキュルキュル音を立てていたのである。問題は誰が彼女を満足させる肉棒となるかであったが、こうして彼女が倒れるたびにその恐ろしい挽肉器の前には行列が出来、押すな押すなの大混乱となるのであった。
(中略)
 口々に挨拶を残して人々は挽肉になっていき、そのたびに巨女は「琵琶湖周航の歌」を歌った。
(吉村萬壱『クチュクチュバーン』)


「琵琶湖周航の歌」とういうのが、とてもよい。
 文学界新人賞受賞作。作者は2年後、「ハリガネムシ」で芥川賞を受賞。
 引用のように、荒唐無稽、エログロ、屍累々の酸鼻、撒き散らす内臓と糞の腐臭・・その退廃的終末世界はハンパではないが、日常がとつぜん瓦解した世界での獣的な人間性の本源を描いている点で文学なのだろう。
 同時収録されている「人間離れ」も同じく日常が突如瓦解するストーリーだが、「クチュクチュ」よりもパワーは上。宇宙から振ってきた問答無用の殺戮生物に対して、人間をやめる「人間離れ」の技によって生き延びようとする群衆の寓意的な姿が悲しくも切実。裸で、敵に対して尻をさらし、肛門から直腸をひきずりだす技であるが、効果のほどは未解明でも、追い込まれた人々は狂信的にこれを行なう。


クチュクチュバーン (文春文庫)

クチュクチュバーン (文春文庫)