『脳病院へまゐります。』 若合春侑

女は男に泣かされれば泣かされる度、男のやうになつて女を棄てて行くか、もつと女を究めて行くか、少しづつ分かれて行くのかも知れない、誰かもさう云つてゐた。


 懐古趣味文体で書かれた極度のマゾ女の告白という体裁。選考委員絶賛で文学界新人賞受賞作となり、そのまま芥川賞候補にもなった。擬古文に面食らい、最初は読みにくさを感じたが、慣れてくると次第に不思議な味わいを感じてくる。
 同時収録の「カタカナ三十九字の遺書」も芥川賞候補作。
 いずれも病的にまで、ひとりの男に支配されることを望む女の姿を描いている。めずらしいテーマではないが、女性作家が書いているという事実も興味深い。ストーリー展開も定型ながら谷崎趣味な文体で描かれる疑似世界には確かに他にはない空気がある。


脳病院へまゐります。 (文春文庫)

脳病院へまゐります。 (文春文庫)