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『Water』吉田修一

 スタート台から眺めるプールの景色は絶品だ。風が作る小さな波に太陽が反射している。ボクはプールが好きだ。たぶん海よりも好きだ。プールには海が持っているような獰猛なモラルだとか、荒々しい情操がない。一言で言ってしまえば、プールは男らしくない。そして何より押しつけがましくないのだ。清潔で、淡泊で、そして危険のないプールがボクには合っているように思う。
吉田修一『Water』)


 高校水泳部の男子部長が主人公のスポーツ青春小説。作者が芥川賞をとる前の作品。
 友情、淡い恋心、家族、身近な者の死、といった青春エッセンスが、インターハイをめざす四人の少年たちを軸に織り込まれている。
 主人公の兄の雄大(天才を感じさせる人物造形)は、オートバイ事故で死んでいる。母はその死を乗り越えられず精神を病み、息子が死んだことを認めようとしない。兄は主人公にとっても、水泳のお手本的存在である。皆が皆、自分の生のなかで乗り越えていかなければならないものを持っている。

母の様子がおかしいと判ったとき、親父は言った。
「女の悲しみ方と男の悲しみ方は違う。お母さんが雄大の分まで晩飯を作ったら、お前が喰ってやれ。何も言わずにお前が二人分喰ってやれ」
吉田修一『Water』)


下記の本所収。