側撃カミナリ

 落雷の季節。人に落ちるカミナリには、直撃と側撃のふたつがあるということを新聞で知った。
 側撃とは、他のものにまず落ちてから空気や水を介して人間に電気が流れる。海に落ちたカミナリで人が感電するのも側撃だ。
 直撃の死亡率が74%なのに対して、側撃はなんと90%。


 娘とその友だちと三人で海に行った。波が高かったので、沖のブイまで泳いでいる人はひとりふたりぐらいしかいなかったが、トライアスロンのいい練習だと思って、たてつづけに5往復した。浜辺にあがるときには、寄せ波をうまくつかって地上にダッシュする。くるっとUターンして、再び海に向かって走る。入水するときも寄せ波と引き波を利用する。そんなおかしな練習。
 最近、スイムスクールに通うようになり、背泳ぎやバタフライができるようになってきたのがうれしくて、やってみた。大波が打ち寄せるなかの背泳ぎは太陽が見えてけっこう楽しかったが、沖に出ると急に孤独な気がした。クロールや平泳ぎでは感じたことのない孤独感が背泳ぎにはある。広い空の下、音のない世界にいるからかもしれない。
 僕の初心者バタフライはプールでやるとすごく人迷惑で遠慮がちだったが、海だと波の一飛沫ぐらいなもので、思いっきりばたばたできた。しかし娘たちによると、海のむこうで、ぶかっこうなバタフライをしている人間は、どこかケモノじみて人間じゃないもののように見えるそうだ。
 そうして、沖のブイでターンしようとしたとき、遠雷が聞こえた。
 全力泳で浜辺にもどった。このときばかりは、かけどもかけども進まない感じがした。焦ったときの海は怖い。
 娘たちに帰るぞ、と言ったら、晴れてるじゃん、とぶうぶう言われた。
 片づけを終えて引き上げるころになると、遠くの雷鳴がはっきり聞こえるようになった。ライフセーバーのリーダーらしきロングヘアーの男が監視員数名を集めて協議をはじめるのが見えた。
 彼のロングヘアーの髪の毛の数本が、きれいに放射のかたちに重力にさからってピンと反り立っているのを見つけて、可笑しかった反面、カミナリが近づいていて帯電しているのかと思い、ちょっと怖い気もした。
 新聞によると、15km離れた場所でかすかな遠雷が聞こえた場合、自分のいる場に落ちる可能性は2%あるそうだ。