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『ひとり日和』青山七恵

「吟子さん、外の世界って、厳しいんだろうね。あたしなんか、すぐ落ちこぼれちゃうんだろうね」
「世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ」
 吟子さんは、きっぱりと言った。
青山七恵『ひとり日和』)

 歳は離れていても女同士だ。敵対心や連帯感が混じり合ったところで、わたしたちの視線はぶつかる。


 2007年前期の芥川賞受賞作。作者は現在も旅行会社に勤務。
 20歳のフリーター女性の自立の一年を描く。彼女は「売り物を盗むような勇気はなく、たいてい周りの人の持っているちょっとしたものを狙ってコレクションに加えていくことが、幼いながら快感だった」というちょっと変わった盗癖の持ち主。

 そして今でも、そのくせがときどき出てしまう。
 収集したがらくたたちは空の靴箱に入れてとっておく。今、部屋の押入れの奥にはそのたぐいの靴箱が三つ入っている。
 折に触れて、わたしはその箱を見返してみて懐かしさにひたった。そして、かつての持ち主と自分との関係を思い出して、切なくなったりひとり笑いをしたりする。その中の何かを手に取っていると、なんとなく安心するのだった。
 そして、ひととおり思い出を楽しんだあとには、こそ泥、意気地なし、せせこましい、などと自分をののしり自己嫌悪に陥ってみる。そのたびに一皮厚くなっていく気がする。
 誰に何を言われようが、動じない自分でありたいのだ。
 これはそのための練習なんだと、靴箱のふたを閉めながら言い聞かせていた。


 父不在の家庭。母は仕事に恋に、女をエネルギッシュに生きている。(が、どこか疲れていると娘は見ている)
 行き場もなく、吟子さんという遠縁の親戚で東京でひとり暮らししている老婆のもとに身を寄せる。ちょっと変わったおばさんと、心を閉ざした少女との交感という構図は、芥川賞受賞作『ネコババのいる町で』と同じ。
 ただ2007年の『ひとり日和』の主人公の方が、はるかにあっけらかんと闇が深い。
 若干20歳のフリーターである若い女の、乾いた複雑さにそら恐ろしくなる。同年代の学生男子などは、なんともシンプルでかわいい。