親ばかを見に清水公園へ

 日曜日に自転車のタイムトライアルレース(20km)に出るので、松戸の実家に滞在していたところ、旧知も実家に帰っていると聞いたので、飲むかと誘ったら、家族で清水公園に行くからとあっさり断られた。
 この旧知とは高校1年と3年が同じクラスで、文系クラスではいつも隣の席だったのと、同じ部活であった。1年のとき彼は毅然と裁判官をめざしていたので、僕もあやふやに裁判官をめざしてみたが、3年のときには彼は芥川賞をとると言って作家志望になっていたので、僕も芥川賞をめざすことにした。
 彼は京都大学に進み、僕は東京の大学に行ったが、遠く離れてからも書いた小説を送りあって酷評しあう仲がつづいた。一度、オートバイで彼の下宿に遊びに行ったこともあった。
 そんな彼も今は立派な親ばかである。
 その親ばかぶりをわが目で見てやろうと、マウンテンバイクで清水公園まで行き、広大な園内をぐるぐるまわってみたが、親子連れが多すぎて発見できなかった。
 帰りがけに彼の実家に寄ってみた。高校のとき一度遊びに行ったことがあっただけだったが、体が覚えていてすんなり行けた。
 クルマがなかったので彼が不在であることは明らかだったが、ここはひとつ御尊父御母堂と茶でも飲みながら彼の親ばかぶりについて慨嘆しようと思い、呼び鈴を押した。呼び鈴を押してから、ぴちぴちのレーサーパンツにチームジャージとサングラスという自分の格好があまりに世間離れしたものであることに気づいたが、出てきた御母堂は僕の姿を見てもそれほど驚いていなかったので、てっきり、
「僕のこと覚えてくれてました?」
 と言ったら、
「ごめんなさい。ぜんぜん」
 せめてサングラスをはずすべきだと思ったが、御母堂は動じることなく、
「お友だちが来るかもしれないと言ってたので」
 あらら、完全に行動を読まれていたと知って、ちょっとがっかりしながらも、
「お父様はお元気ですか?」
「はい、おかげさまで。ご結婚は?」
「はい、おかげさまで娘が九歳になります」
 などと簡単な近況報告をしただけで、けっきょく家に上がりこまずに帰ってきた。
 自転車屋で整備してもらった決戦用自転車の試走をしたのと合わせて走行距離51キロ。
 妻とジョギング3キロ。