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『無花果(いちじく)カレーライス』伊藤たかみ

 陽介の父は再婚していた。子供が二人とも男で、かつ妻と別れた場合、なぜか父は父であることを放棄する。一人の男として振る舞うようになる。平気で新しい恋人の話もするし、昔ほど子供の夕食やら進学について気を遣わなくなった。
(『無花果カレーライス』伊藤たかみ)


 僕の父はそうでもなかったなあ。自分がそうなっても、そうならない気もする。
 同作は『ドライブイン蒲生』所収。ちょっと壊れた父親との関係を軸に、ちょっと壊れた家族を描いた物語が三篇収められている。
 『ドライブイン蒲生』・・父との思い出。姉との思い出と現在。姉の離婚が進行しながら回想が織り交ぜられる構成。ヤンキー姉の毅然としたキャラクターがおもしろい。
 『ジャトーミン』・・父の思い出の話。病床の父の死が進行しながらの回想形式である。父の愛人が幼いころの主人公と妹の記憶に不思議な光景として残っている。類似の構成を持つ作品として芥川賞作家の長嶋侑『サイドカーに犬』がある。ただしそちらは姉と弟で、姉が視点人物。子どもから見た父と、その愛人の不思議な存在感の情感も「サイドカーに犬」の方がうまい。同作は『猛スピードで母は』(芥川賞受賞作)所収。近年、ドラマ化もされた。