葬送

イグニッションキーをまわす
ニュートラルの緑灯が点り
重低音が黎明をゆっくりと裂く
眠りに沈む街を抜けてゆく先は
半島の名もない国道


山の稜線は重い色に沈みながら
その縁(へり)をうっすらと
黎明に染めはじめている


蒼味をのこす空に
エグゾーストノートが
たちのぼってゆく


シールドを開放すると
森閑とした冷気が
頬を刺し通す


ステアリングが舵角を切って
またひとつ
変哲もないコーナーを抜けていく


午前4時50分
ポケットの缶コーヒーはまだ暖かい
煙草の箱のフィルムをはがす
いつもとちがう銘柄


ガードレールの足もとに
開けてない缶を置き
火のついた煙草をのせ
その細い煙が消えるまで
もう一本の煙草を吸う
それから、箱を缶にかさねた


オートバイは機首をめぐらせ
来た道をひきかえす


バックミラーの朝日が
眩しい
それは一年に一度
俺だけのささやかな行事


(2002 Chihiro Ichihara)