すべては虚しさがそうさせる。マチガった使い方。

 2008年は春が100kmマラソン挑戦からシーズンイン、秋のハセツネカップ(日本山岳耐久レース)で締めくくる予定だった。
 ハセツネカップは舗装されていない山道を70km走る。
 登坂する標高差は4000mを越え、制限時間は100kmマラソンのおよそ二倍の24時間。
 ヘッドライトをつけ、真っ暗な山道を夜通し走るのだ。
 しかし何がつらいかというと、なんといっても「水」!
 三回目のチャレンジにして昨年、初めて完走を果たした友人の話では、過去二回のリタイヤはすべて「水」不足によるもの。
 エイドステーションの充実しているフルマラソンやウルトラマラソンとちがって、ハセツネでは自分の飲む水は自分で背負わなければならない。2リットル背負っても足りず、5リットル背負ったという。友人に言わせれば、フルマラソンなどは「あんなのご接待」なのだそうだ。


 週末、この友人と丹沢山中を走ることになった。トレイルランは初めてである。
 ちょうど東京で仕事の打合せがあったので、ついでに専門店に寄って道具一式をそろえてきた。
 まず、二本のランニングステッキ(ストック)を収納する機能と、走りながら水分補給できるハイドレーションシステムのついたバックパック。
 ハイドレーションシステムは3リットルを選んだ。ストローみたいなチューブが背中側から肩を経て前側に伸びる。
 あとはシューズ。トレイルラン専用の強靭なシューズだ。(写真)
 会計をしていると、店の人が「ハセツネに出るんですか?」と鋭い。
「申し込み、急いだ方がいいですよ」
「え? おととい受付がはじまったばっかりですよね?」


 小田原への帰途、東海道線の車中で、ハセツネのオンライン申し込みをやっておこうと持っていたノートパソコンを開いた。

満員御礼(〆切お詫び)
定員に達しましたので第16回大会参加申込受付は終了させていただきました。


 終了していた。


 目の前が真っ暗になったりはしなかったが、買ったばかりのハイドレーションシステムとシューズが虚しい。
 その虚しさに突き動かされたのだろう。衝動的に、ボックス席でごそごそビジネスシューズを脱いで、真っ赤な新品のトレイルランシューズを履いた。
 終点の小田原に着くや、ハイドレーションバックパックを背負い、雨をおかして走った。コンビニでビールを買い、ハイドレーションシステムに入れて走りながら飲んだ。やけに酔いがまわった。そして温泉街まで走り、酔いと虚しさとともに場末のキャバクラの明かりに身を投げ入れた。
 ジャケットに真っ赤な山岳シューズ、片方の肩にパソコンの入ったビジネスかばん、背中にハイドレーションバックパックを背負い、ずぶ濡れのおかしな客であった。
 しかしウケた。「ビールを飲みながら走るための道具だ」と言ったら、日本人の女の子には「へえ〜」と軽く流されただけだったが、タイ人の女の子たちは嬉々としながら次々にハイドレーションシステムを背負って遊んでいた。
 間違った使い方である。しかも飲食店にビール持ち込みである。
 一時間で残る金も使い果たし、表に出ると雨があがっていた。