こうもりくん、終電ですよ

 丹沢の峰みねに、うっすらと白いものがみえる季節になってきました。朝刊をとりにいこうとして、玄関のとびらを開けると、おわっ・・。
 ちいさい貧乏神みたいなのが、玄関わきのすみにうずくまっています。

 小指のつめさきよりも小さな手(正確には「足」)。
 よくみると、こうもりでした。
 冬眠にはいっているらしく、ぴくりともうごきません。そのまま三日。
 おもてで女子中学生のにぎやかな声がしたと思ったら、娘が友だちを数人連れてきて、こうもり観察をしていました。

 妻は「かわいい」といって愛でていましたが、場所が場所なので管理人さんに見つかると、捨てられてしまいそう。あたたかい日に、別の場所に移動してもらおうと、つっついてみると、「シャー」と威嚇されました。
 でも、すぐに眠ってしまいます。
「もしもし〜、お客さあん、終電ですよ〜」と、ゆさぶると、両手(羽)をいっぱいにひろげ、口を大きくあけて牙をむいてきました。かなりこわい顔ですが、指のあたまぐらいのおおきさなので、やっぱりかわいい。
 しつこく揺さぶっていると、シャーといわなくなり、懇願するような、ちいちいという鳴き声にかわりました。そのせつない声に、あとで家族に、こうもりをいじめてたと非難されましたが、愛あればこその行動です。またいつあたたかい日があるかわかりません。ちゃんとしたすみかに帰ってもらう、まさに「終電」なのです。
 しばらくほうっておくと、日暮れ前には、無事、飛んでいってしまいました。
 あとで調べてみると、アブラコウモリという種類で、人のいる家に住みつくそうです。むかしは住んだ家に福をもたらすといわれたともあり、「貧乏神」とは失礼な発言でした。