ナウシカ的献身

 吹きすさぶ北風に雨がまじる。ときおり水面を打つように強く降り、波に釣り浮子が翻弄されていた。


「救国の散財」運動で、へらぶな釣り道具をいくつか買った。キャンプ用品メーカーではいちばん好きなスノーピーク社がへらぶな用品を出しいていたので、釣り台、網、竿掛け万力などを同社製品でそろえた。
 やっと玉網を導入できた。これで釣れても、慌てる心配はない。


 夕方まで計画停電だというので、近くの野池に釣りに出た。予報では晴れだったのに、池に着くと雨が降りはじめた。
 新聞やテレビで飲料水の放射能汚染が報じられ、関東圏でも雨に濡れないようにといわれていた。そのせいか、あっという間に池の周囲の公園から人がいなくなった。
 しかし、釣りは好調だった。打ちはじめから浮子が動き、たてつづけに三枚。(へらぶな釣りでは、三尾といわず三枚というそうだ) その後はアワセがうまくいかなくなったが、浮子は動きつづけた。初の複数釣果だ。(写真にうつっているものは、竿とへらぶな以外はすべてスノーピーク社製)


 計画停電がおわるまでの三時間、みぞれまじりの放射能雨にさらされながら笑いつづけたのは、釣れたのがうれしかったからだけではない。それは世界へのメッセージだった。五分で肺が腐るという腐海において、マスクをはずし微笑をたたえるナウシカを思いうかべていたのである。
 われわれ中高年はうろたえず微笑をもち平常心。ペットボトル水は妊婦子どもにまわしてあげよう。
 しかしながら無人の公園にあっては、このナウシカ的献身も徒労といえば徒労であった。