震災節電の恩恵

 早川で鮎釣りの姿が見られるようになると、本格的な夏の訪れである。
 鮎釣りの名所とはいえ、早川は交通の要所でもあり、例年ならばジャンクションをあかあかと照らしだす光や斜張橋の青白いライトアップで夜も煌々としている。しかし今年は震災節電のため、かなりの灯が消されているので、夜が暗い。
 コンビニに行こうと家を出て、道を数歩もいかないうちに、すうっと光が横切った。
「あ、ほたる」
 妻が声をあげた。
 数歩いくと、側溝にまた光。
 川岸の店でアイスを買って、橋の上で食べた。橋はすべての灯火が消され、真っ暗だった。
 目がなじんでくると、せせらぎの流れに沿って小銀河のようなゲンジボタルの光筋が浮かびあがってきた。天空とは別の、もうひとつの夜空みたいだった。
「こんな近くにもいたんだね」と妻が言った。