寒べら

へらぶな釣りデビューが昨年の震災後だったから、春、夏、秋と、ふな釣りの四季を順ぐりに経験してきた。
さて、厳寒のシーズン。ふな釣りの四季にあって、もっとも味わい深い長竿による寒べら(かんべら)釣りの季節である。
春先は9尺(1尺は30cm)の竿から始めて、11尺、13尺、15尺と次第に長い竿を振れるように修練してきたが、この季節、長竿の入門である18尺を振る。

右にいったり、左にいったり。同じところにエサを打ち込むのが、ほんとうに難しい。15尺まではわりと思いどおりにいくのに、たった90cm長くなっただけで、まったく違う。冬の季節風も難しさに追い打ちをかける。寒べら釣りの熟練は、24尺から30尺を振るというから、神ワザとしか思えない。
ふな釣りをする前は、寒風吹きすさぶなかで釣り糸を垂れているおじさんたちが変人に見えたものだが、いざ自分でやるようになってみると、長竿を振るおじさんたちがまぶしい。
アタリが出るまで待つこと1時間。1日数回しかない貴重なアタリ。しかも、太さ1mmに満たない細い細いウキの目盛りが、ちくっと5mmぐらい沈むだけ。専用の双眼鏡でウキを見つめるへら師もいる。笑い話ではない。
だから釣れたときの喜びは大きい。触れてみると、寒べらの体は氷のように冷たい。しかし釣り師の心は熱いのだ。
来年の冬は21尺、そして、いつか24尺を振ってみたい。