父の日。娘には株券を。

父の日である。
雨の朝、4時に起きてしこしこと株券を作ったのには、ワケがある。
土日は漁はお休みなのだが、今日は4日ぶりに細君が海外出張から帰ってくるので出漁しようと早起きした。
しかし、雨はよしとして、波と風の状況が悪く、出漁断念。
釣り具屋にひやかしに寄ると、どんよりした空から刹那、朝日が差し込んでみごとな虹。
私の網膜裏に、きりりと明示的な映像が浮かんだ。
漁のための新艇をカードで買って苦しい。とにかく苦しい。釣り具屋の店員にも、またひやかしに来たよ、と眉をひそめられるほどである。
ここでひとつ、株券をこさえて広く出資を募ればどうか。漁獲に対する権利とネーミングライツを売るのだ。

急いで家にもどり、株券を作り始めたというわけ。
何の株券かというと、新規導入した漁船の出資をお願いするものである。
試験勉強中の娘に売り込みに行くと、株券を眺めながら不審げな顔。日曜の朝から株券を買ってくれと土下座する父親というのも情けないが、背に腹は変えられぬ。今日は何の日でしょう? と父の日をたてにまでして、1口100円を10口、千円分をお買い上げいただいた。

さて問題は、海外出張から帰ってくる細君である。
勝手に400口と印刷した。四萬円である。
いくらフルタイムの職業婦人とはいえ、これだけの大金を快く出してくれるであろうか。しかも、彼女は私の娘ではないので、父の日は有効ではない。


艇名は「かまど」丸。
豊かな晩飯のおかずに寄与する思いをこめた「竈(かまど)」と、出資者である細君と娘の名から平仮名をとったネーミングライツでもある。


黎明にむかって漕ぎだすのである。株券を見せて、細君に「あはは」と軽くいなされないことを祈りつつ、朝日に向かって漕ぎだす、イメージ。