能登の野営旅6

■8月18日(金) 
 雨上がる。
 午前4時起床。
 今日は移動がないので、チャリのコースの試走を行なう予定。山岳を含めた50キロの難コースを本番では2周回。試走なので、なるべく足を使わないように1周回するつもりである。
 晴れなら中止、曇りなら最高、小雨は決行のつもりでいたが、願いかなって曇り空。晴天はダメージが大きすぎる。1週間の能登野営生活が晴天つづきで、すでに体力はおそろしく消耗している。連日、下痢と無気力。
 ハンゴウ炊飯をし、朝食と同時にオニギリをつくった。午前6時、チャリにて試走出立。ワイフと娘はクルマでサポートカー。
 蛸島の集落を抜けていく。地元の真っ黒に日焼けした子どもたちが集まってラヂオ体操をしている。通り過ぎると、小さないがくり頭が人形館みたいに同じ動きで釘付けで僕の姿を追う。
 ラヂオ体操の夏休みが残っている能登半島は、町なみがきわめて特徴的である。どこに行っても黒塗りの瓦の家。
 今は北海道さえ、全国均質化の波にさらされている。どこの景色か分からない土地が多くなっている。
 ここ能登は、先端に行けば行くほど、古き日本の姿がそのまま残っている。保存しているというより、生活の中にふつうに残っているのだ。そこが強く脳裏に刻まれる。
 能登は、誰が見ても能登、なのである。



 海岸沿いに反時計回りにチャリは進む。コースは能登半島先端の灯台をめざしている。
 ちょっとちょっと、いきなり坂が半端じゃない。
 後半にすごいのがあるとは聞いていたが、坂に強いコンパクトドライブを入れているというのに、序盤から立ち漕ぎを強いられる。しかし景色が最高だ。走りながら、来年も出ようと思った。



 30キロ地点までは平均時速28キロののんびりペース。本番もこのぐらいのペースでいくとよさそうだ。苦手なラン23キロがあとに控えている。
 しかし終盤の大谷峠越えをして考えが変わった。勾配13パーセントがつづく。ずっと立ち漕ぎである。箱根越えを毎週やっているから、少々の登坂に関してはビビらないつもりだったが、大汗でペダルを踏みつけながら、「これ、ありえーん!」と叫びつづけていたのを、おそらく妻子も聞いたであろう。



 50キロの1周回を走りおえて思ったのは、ペースをもっと落とす必要があるということ。サイクリングペースでは後半、へたれそう。ポタリングペースぐらいでちょうどいいはず。試走をしておいてよかった。
 300円の高価な温水シャワーを浴び、妻子は海へ、僕は日焼けの被害をこれ以上拡大させないために表に出ないことにした。キャンプ場の管理棟でビールを飲みながら洗濯。
 この日は、ぞくぞくとトライアスリートたちがキャンプ場に入ってきた。
 うちのテントの隣に50代ぐらいの夫婦が、テント設営をはじめた。高級旅館が似合いそうな夫婦だった。アウトドア派に見えない。何度も場所を変えたり、テントを張り直したりしていて、どこか弱々しい。
 あとで話して分かったのだが、じつはこの夫妻は全国、そしてハワイを転戦してきたアイヤーンマンだった。宮古島ストロングマン優勝6回(エイジ)、アイアンマン・ワールドカップ・ハワイ大会出場・・人は見かけによらない。この人、ゼッケン61番、ナガクラさんという58歳のアスリート。


●この日の修練:チャリ52km
●この日の教訓:洗濯時、バスタオルは乾燥に時間がかかるし、かさばる。長旅でも、持っていくのは1〜2枚にし、よほどのことがないかぎり、フェイスタオルで済ますようにすべし。