ベートーベンのCTスキャン

 やっと頭痛が耐えられるレベルになってきた。
 しかし依然、顔面半分の麻痺はつづいている。左側の鼻、口腔内、唇、頬などが無感覚で、ちょうど歯を抜くときに麻酔をじゃかすか打ったあとの感じ。医者に行けと妻子に厳しく指導され、やむなく歩いてすぐの総合病院へ。またCTスキャンをやられた。15分ものあいだ、人間魚雷のような筒の中で、ごっこっこっこ、と、スキャンされ放題。機械音のあいまにベートベンの「運命」がかすかに流れていたが、何とも意味深である。この機械は日赤病院のやつより高精度な機械だと医者は自慢していたが、結果は同じく「異常なし」だし、やはりアドバイスなし、薬なし。
 頭痛と顔面の痺れは耐えるしかないんでしょか? 頬骨がへっこんで頬肉が垂れさがっているのは、一生このまんまなんでしょか? 苛烈な肉体鍛練をすぐ再開してもいいんでしょか?
 何も訊けないままベルトコンベアーのように会計へ。
 顛末を話すと、妻は、
「次は整形外科に行ってきなよ。それとも耳鼻科かなぁ。あきらかに顔がいがんじゃってるんだから、どっかに膿がたまってるかもよ。リンパとかつながってるから、あちこち痺れてるのかも。レントゲンもとってもらった方がいいよ」
 なるほどこの時代、医者にかかる人間も見識がないといけませんな。まず病院の何科にかかるかという選択を正しく通過しないかぎり、僕は延々何度もベートーベンを聞きながらCTスキャンをくり返すことになるのだろう。