タンクべっこり転じて福となす

 オートバイ用品店の中を、もう小一時間うろうろしている。
 CB1100Rのタンクにべっこりできたクレーターを誤魔化すタンクパッドを物色するが、今の流行のものはシャープにスタライズされていて、マイク・タイソンに強烈な一発を見舞われたような陥没を隠せおおせるほどの鷹揚なパッドがない。
 もう5、6年前に売れ残りで買った時代遅れのタンクパッドをZXR750につけていたことがあったが、黒のスポンジで色気もなくまったりとタンク尾部を覆い尽くすような実に野暮ったさながら、その無遠慮な剛の雰囲気がまたレーチーな気がして愛用していた。そのパッドは、その後は買おうとしても手に入らなかった。
 あれさえあればと思うが、とりあえず塗装が剥落するのを防止するために何か貼っておきたい。しかたないので2つのパッド(正確にはひとつのパッドに3枚入っているので6枚だ)を買って、ちょっとみっともなさそうだが応急処置をしておこうと思ってレジに。うわ4000円、応急処置でも高いなあと思ってレジ待ちでかたわらの売り尽くしワゴンセールを見るともなく見ていたら、やややや!!!! これですよ、これ。ZXRにつけていたのと同じやつ。1枚だけぺろんと置いてあった。ブロンクスで思いがけず幼なじみの女の子に遇ったような「うらぁ、おまえこんなとこで何やっとんねんっ!」絶唱感激のプライスは、処分特価900円。
 いっきにボルテージも上がり、勢いづいてタイヤ交換まで敢行。そのあとプールで2km泳いで家に帰った。