おおいくんとサロマ100kmマラソン

 ブログをはじめたのは2年前の春である。
 そんなことを覚えているのは、ちょうどそのころ、高校時代の友人のおおいくんが、ひょっこりと名古屋から松戸に遊びに来て、そのことを慣れないブログに書いたから、印象に残ったみたいだ。
 そのとき、おおいくんはマラソンをやっているのだと言っていた。
「ちひろちゃんも、どうですか?」
 そう誘われたが、おおいくんのやっているマラソンは、ふつうのマラソンではなかった。50kmから80kmとおおいくんはハードルを上げながら大会に出ていた。
 まだ、かなり無理そう、と、僕は正直に返事した。ただ、1年か2年のうちにトライアスロンにチャレンジしてみようと思っているのだが、おおいくんもいっしょにやってみないか、と誘ってみた。
 おおいくんは、ちょっと考えてから、礼儀正しい笑みを浮かべて、自分にはトライアスロンは無理そうだと言った。自転車が苦手だからというのが理由だった。あれだけのマラソンをやっていて、自転車が苦手なんて・・ちょっと不思議な気がしたが、おおいくんがそう言ったらそうに違いない。しかし、おおいくんは高校のときは水球部で、泳ぎなんかはばっちりなのだ。でも、やっぱり、おおいくんがそう言うのだから、そうなのだろう。
 翌月、おおいくんから大きな封筒が届いた。開けてみると、会津ウルトラマラソンの申込書が入っていた。おおいくんは「80kmの部」で申し込むつもりだと書いてあった。ちひろちゃんもいっしょにどうですか?
 返事も申し込みもしないまま、大会は過ぎた。
 翌年(2006年)の夏、おおいくんから暑中見舞いの葉書が届いた。100kmウルトラマラソンの最高峰、サロマ・ウルトラマラソンの完走の写真がついた葉書だった。笑顔でもなくガッツポーズするでもなく、ふつうの顔をして、ふつうに白い手袋をして端正にゴールしている写真は、いかにも礼儀正しいおおいくんらしかった。僕はそれを机の前の壁にピンでとめた。
 葉書が届いて2週間後、僕は初トライアスロンで大島に行った。ちょうど1年前の話である。


     *


 今日、長崎から大きな封筒が届いた。アイアンマン・ジャパンの完走記録証だった。
 公式記録は11時間39分1秒。僕のゴールの写真では時計は11時間41分をさしているが、時差スタートの関係で時計が示しているタイムは実際より2分長かったのだ。
 11時間39分。見覚えのある数字。まいにち見てきた数字・・机の前の白い手袋をしたおおいくんの上の時計も、11時間39分を指していた。
 一昨日、サロマ・ウルトラマラソンが開催された。もし今年もおおいくんが出ていれば、近いうちに写真つきの葉書が届くかもしれない。来年の6月、サロマ100kmのゴールで、おおいくんに会えるだろうか。

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