阿寒湖の朝の決断

 午前6時起床。阿寒湖の高級ホテルは通信環境もばっちりだ。ワイフたちが起きるまで、仕事と執筆をする。それにしても仕事がたまっている。まる一日このホテルでゆっくりできれば片づきそうだが、そんなことをすれば財布がいくつあっても足りない。純粋にモバイルオフィスを実現するなら、インプレッサのようなセダン車ではなく、ワンボックスカーが必要かな。生活の洗練度を上げればセダンでも可能だろうが、まだまだ鍛練が必要だ。今回はいろいろと勉強になった。
 天気予報ではこれから四日ばかり雨のようだ。ワイフは翌日の夕方の釧路発の飛行機で帰還予定になっている。今晩は釧路湿原でキャンプの予定だったが、突如、激しいホームシックに襲われた。モバイルオフィス実験の最大の敵は、やはりこのホームシックだった。
 出立前は娘が早々にネをあげると思っていた。が、実際は俺の方だった。ワイフと会うまでは厳しい毎日がつづいたにもかかわらず、マドカはいつもはじけるような笑顔だ。が、ワイフが来てから微妙に俺と娘の心の中のバランスが崩れてきているのが分かる。
 地図をだす。阿寒湖と千葉のあいだに広がる気の遠くなるような隔たりを見て意気消沈。明日、ワイフを送りだしたあと、雨の中を俺と娘は車中泊をつづけられるだろうか。
 ふと、最速で帰ったらどうなるだろうと思った。今日出て、いちばん早いコースで帰る。海路は青森? 室蘭? 苫小牧? フェリーの時間を調べながらシミュレーションしてみる。苫小牧港19時出港の仙台行きに乗れたら、翌日の昼過ぎには千葉に着く。深夜の函館発青森行きに乗ったら宵の入りには帰還できるだろう。苫小牧を通過するルートで、フェリーに間にあわなければ函館に・・そんなことをあれこれ試算しているうちに活力が湧いてきた。しかし非道にもワイフを一晩北海道に置いてくることになる。ワイフはまだ今回の北海道の最大の目的であるウニ丼を食べていないし、釧路での最後の夜のキャンプを楽しみにしているようだった。
 起きてきたワイフにこの試算を話すと、
「お父さんとマドカでがまん大会やってたんだね。わたしも汽車に乗ってひとり旅やってみたかったし。世界の車窓からファンなのよ」
 ホテルを10時に出て、ワイフの運転で西進する。道央を突き抜けて、とりあえず苫小牧をめざす。松戸に帰ると聞いたマドカは大喜びで、あと何キロ?あと何キロと訊ねてばかりだった。