トライアスロン初挑戦in大島〜1


 金曜日の夜11時半。夜景のきらめく横浜港。モダン建築を思わせる大桟橋に静かに着岸し、いくばくかの人を招き入れたのち、また静かに旅立つ船がある。離島、大島行きの「かめりあ丸」だ。
 翌日、大島ではトライアスロン大会が行われる。ふだんは静かな「かめりあ丸」も、自転車を持ったトライアスリートを満載して、お祭りのような騒ぎだった。



 船内は床やデッキ、階段にまで人があふれている。カーフェリーではないので、大きな荷物がそこらじゅうに置いてある。荷物のあいだにレジャーシートをひろげて早々にイビキをかいている人、宴会たけなわの一団など、移民船の様相。
 家族連れはうちだけのようだ。馴染まねば。私たちも負けじと床にすわりこんでカップ麺をすする。



 大島の玄関口、元町港には午前6時に着く。
 正真正銘の外洋。うねりが高く、着岸前は何かにつかまっていないと立っていられないほど、かめりあ丸がローリングしていた。震度にして6程度ということか。
「船が動揺しております。ご注意ください」
 船内放送がくりかえしアナウンスする。航海用語でこういう状態を「動揺」というみたいだが、ほんとうに動揺しているのは私の方である。ワイフとプリンセスは、けろっとしている。



 港では宿ごとに送迎バスが待っていてくれた。
 乗りこんだマイクロバスには、チャリを持ったトライアスリートが5人。同宿の人々である。
 島内にはコンビニがひとつもない。商店がまだ開いていない時間帯だったので、旅館が朝食を出してくれたのはありがたかった。
 トライアスロンのスタートまでは4時間以上ある。食堂には一番乗り。たっぷり1時間近くかけて、妻子の残したものまでがっぽり食った。他のトライアスリートはちょこちょこっと箸をつけて早々に部屋にもどっていったので、ごちそうさまをしたときは誰もいなくなっていた。しまった。こんなに食ってる場合じゃないのだろうか。腹が減るんだもの
 自転車を組み立て、新調したNKロケッツのピンクのチームジャージを着て町内を試走。
 ありゃりゃ。サイクルメーターが動かない。
 セッティングに30分以上を要し、どうにか動くようになったが、そんなことをしているうちにサンダルばきのまま5kmも無駄走りしてしまった。
 このあとレンタサイクルでワイフとプリンセスはチャリを借りて、3人で1周回10キロの大会コースをサイクリングした。交通規制の準備で白バイまでいて、じつにものものしい。海岸沿いの美しいサイクリングロードからは富士山も見えた。
 元町にもどったると大会選手受付がはじまっていた。午前10時50分。
 受付に行くと、みんな自分の名前が印刷された封筒を持っていた。
 ありゃりゃ。持ってきてません。というか、捨ててしまいました。封筒だもん。
(つづく)