夏本番は黒ビキニと白ビキニ

 娘と市営プールに行った。
 御幸が浜海水浴場のわきにあり、長水路(50mプール2本)がある。
 家から歩いて行けるので、昨日も行って2500m泳いだが、とにかく寒かった。
 今日は照りつける陽射しも強烈。ラッキーにも娘の友だちがいたので、娘のことはほっといて、ひとりでゆっくり泳げた。
 1000mを越えたあたりだったろうか、息つぎするとき視界に10人以上のビキニ軍団。
 水呑みました。しかもこのプール、海水。
 近くにフィリッピンパブの寮があり(なぜ知っているかは不問)、夏本番に誘われて大挙してきたらしい。
 プールサイドからぞろぞろ入水するビキニ。黒、白、花柄、とりどり。なんでもある。なんでもそろう。
 嗚呼。猛然と泳ぐ私。
 それまで遊んでいた他の男たちも、なぜか猛然と泳ぎはじめた。なぜだか。
 圧倒的なスピードと猿のようにターンをくり返す私にビキニたちの視線は集まる。
 水泳って、意外とモテるじゃんか。
 こっちを見ては、トライアスロン泳法に特徴的な私のフィンガーティップの腕の動きを真似て、はしゃいでいる。私はいよいようれしくなって、激しくフィンガーティップ。リカバリーの指が水面を撫で白波をシャープに切る。
 そのうちターンすると私と並んでスタートし、いっしょに泳ぐビキニも出てきた。黒ビキニと白ビキニが私の両脇から、まるで高速船を追いかけるイルカみたいに、しなやかな体を躍動させて並泳。
 フィリッピーナの泳ぎはけっしてうまくはないが、動きがなめらかで、くらくらしてくる。
 人魚だ、人魚の宴(うたげ)だぁ、と、不覚にも中学生のようにはしゃいでしまう、汝の名はダメ男。
 ちょっと好みの黒ビキニが、その後も私のラインを、しきりに交差してくる。顔を上げて減速すると、向うも顔を水面から出して確信犯的ににっこり笑い、ハーイ、と来た。キタキタキタキタキタ、キタァー!!!!
 チーでも、どよ? アト・ザ・ビーチ と、歯のひとつでもきらっとやるはずが、全所持金110円で娘にも先ほど「ジュースも買えないじゃん」と不興を買ったばかりの私は、ただ、ハーイ!とやらしく手を振って泳ぎを再開。泳ぐ前に300円のホトドクなんか食うんじゃなかった。
 慚愧の念で猛然と2000mを越えたころ、ビキニ軍団は手を振って去っていった。
 男らばかりが残ったプールはあまりにも虚しく、寒く、みななぜか狂ったように、がしがし泳ぎまくっていた。
 私もまた監視員に笛を鳴らされるまで、慚愧の念に突き動かされるまま3000mを泳いでいた。
 小田原の夏。フィリッピーナの夏。
 明日はちゃんとワイフにお小遣いもろていこ。