エキサイティングな窓の外

 一日、窓の外ばかり見ている。
 うちは海岸から200mだが、クルマの行き交う西湘バイパスをはさんでいるので、ふだんは窓から波の音が聞こえることはない。
 今朝はちがった。ハリケーンからタイフーンへと変化して話題になった台風の影響で、朝から轟音が部屋を揺らしている。窓の外を見ると、みるみる盛り上がる海、本気でどうなるのかとゾクゾクするぐらいにせりあがった波の山の頂上が白く砕けはじめると、巨大な壁のような傾斜がつき、波濤が見わたすかぎりの滝のようになだれ落ちる。
 まるで白い爆弾のように3階建ての屋根をはるかに凌駕する水柱、そして轟音。ナイアガラのようだ。
 一見、穏やかそうに見える海。風はなく、沖では白波もたっていない。
 それが、みるみると岸近くで海面がせりあがってくる。あまりの巨大さに、どうなっちゃうんですか、これ、と、この瞬間のゾクゾクが止まらない。そして波が砕ける瞬間のカタルシス。
 このくりかえしで、まる一日、窓の外を見ている。
 どうなっちゃうんですかーこれ級の波は、1時間に数回程度。大物はたいてい2回か3回連続する。
 近くの酒匂川河口が台風のときはすごいと熟練のサーファーから聞いていた。台風のときは、有名なサーファーたちが酒匂川河口に集まり、リスペクトのアウラがすごすぎて、ふつうのサーファーは波には入れないそうだ。そんなすごい光景が見たくて、潮まみれになりながらチャリを飛ばした。
 遠めに見ても、しぶきで海岸の町が霧に包まれたみたいに煙っている。パトカー、救急車、ヘリまで出ている。見物人も多い。みんな何かに憑かれたかのように、呆然と同じ方向を見ている。
 津波かと見まごう山のような波。失禁をも禁じえない迫力。
 巻き波の頂上はビルの3階ぐらいの高さにも見える。白く砕けた波の頂上をさらに別の波が襲いかかり、波が二重にも三重にも積み重なって争っている。
 岸辺に何人かいたサーファーらしき人たちも、さすがに遠巻きに見ているだけで、誰も入水しない。
 ここでサッソウと無名のサーファー市原千尋が躍りでて、小山ほどもある波の頂上からシャープな航跡と伝説を残して消えていく。消えていったらだめじゃんか。
 そんな妄想をしながらも、興奮さめやらず、家に帰ってもまだ海ばかり見ている。