梅雨明けて蝉声シャワー

 夜半に風が止まった。日中は海から、夜は陸からの風がほとんどたえず部屋の中を抜けていくので、まだ冷房を一度も使っていない。真夜中に何時間も風がぴたりと止むのは、ちょっと気味悪くさえもあった。西日本で台風が上陸している影響のひとつかもしれない。
 寒がりの妻がいなかったこともあって、ベランダの窓を開け放ったまま寝た。妻は愛媛に出張に行ったまま、直撃した台風のために足止めを食わされて帰ってこれなかった。
 早朝、蝉声のシャワーで目が覚めた。海からの風にのって届く蝉の声を聞いていると、梅雨が明けたんだと実感した。
 しかし37回の夏に刻み込まれた蝉声の記憶と何かがちがう。違和感の正体は、蝉の声自体にあった。
 馴染んだ声、あの暑苦しいアブラゼミの声ではなく、同じ喧騒でも、ちがう種類の声だった。
 ベランダに出てみると、鳥にやられたのか、透き通った翅(はね)が散乱した蝉の死骸があった。黒く巨大な体躯からは頭部がなくなっていたが、娘と図鑑でよく見たクマゼミだった。気候の異変だろうか。