台風の目に入った(ビッグウェーブ動画つき)

 海岸沿いの吹きさらしの建物は、台風の風に翻弄されて揺れていた。
 もう何時間も台風情報を伝えつづけているテレビの音が聞こえないほど、ジェット機のエンジンのような音が部屋を震わせる。文庫本の小さい字を追っているとを、音と揺れで酔ってしまいそうだった。建物そのものがジェット機になって飛行しているような感じだった。
 午前2時、とつぜん風と雨がぴたりと止んだ。待っていた台風の目に入ったようだった。
 まもなくテレビが「小田原上陸」を伝えはじめた。
 月が見えないかと思って夜空を見ていたが、雲が薄くなった程度だった。台風の目にあったのは、旅先の北海道稚内で遭遇して以来だった。