寝台急行の夜

 深夜、小田原駅三番ホーム。
 ブルートレイン「銀河」がゆっくり入線してきた。
 東京と大阪を毎夜むすぶ銀河は、廃止が噂されるブルートレインの中でも、さらに希少な「寝台急行」である。大阪には朝七時に着く。
 古びた青色の車両に乗りこむと、くすんだ車内は小便臭い。ひさびさの旅の匂い。
 通路側に等間隔に据えられた補助椅子を引き出して、窓枠にビール缶を置く。
 鉄橋の音、トンネルの音、踏み切りの音がいくつも通りすぎていくうちに、持ってきた500缶をぜんぶ飲んでしまった。車内販売はない。
 鉄道マニアらしい大きな一眼レフカメラを持った初老の男性や、単身赴任先から家族の待つ家に帰るらしきサラリーマンもやがて寝床に着き、補助椅子に最後まで残っていた男女の学生グループも去ってしまうと、通路はひっそりとした。
 ときどき明滅する蛍光灯の白い光の下で、釣り用に持ってきたトリスウイスキーのスキットル瓶を傾けるうちに、静岡駅を過ぎた。