スウェーデンの金髪チェーンソーへの屈折愛

 インターネットがなかった世代の青少年にとって、まばゆいばかりに憧憬であったスウェーデン
 そのスウェーデンのチェーンソーメーカーがつくったエンジンとオートバイにまたがった瞬間、金髪白肌に身をゆだねるような官能に刺し貫かれるのであった。
 各部の作りはイタリア資本の恩恵か、毒なのか、きわめてイタリヤーンな造形である。(ウィンカーなんてカーボンプリント)
 美しいといえば美しいが、チェーンソー的な粗削り感はない。(アバウトさはあるが)
 エンジンは昔乗ったホンダXR600Rのような地響きを轟かせる野獣性は感じない。始動性もFCRキャブなのにきわめてイージー。信号待ちごとに不安なくアイドリングストップ可能。
 シート高は数値的には高いが、きわめて細身にできているため、意外にも足つきは悪くない。車重も軽いので取りまわしも楽。(感覚的には乾燥重量にして130kg台?)
 ただしハンドルの切れ角は少ないので、シャープなUターンをしたいならドリフトしろということかもしれない。


 納車前にエンジン関係の部品二点をリコール対策。
 しかし納車後100kmほど走行したところで、高速道路走行中にFCRのドレンボルトが緩みガソリン垂れ流し&ウィンカーレンズ消失。
 走行300kmを前に停車すると数分でガソリンぽたぽた流下。気づかず、一晩で3リットルほど消尽。どうやらキャブからのオーバーフロー。
 このガソリン高の時代に、なんとも贅沢なものである。官能は高くつく。


 まあこの程度なら対処できるレベルなので許せる。なんせ憧憬のスウェーデン。


 乗った最初の印象は、直近に乗ていったホンダAX-1よりぜんぜんイケてねー、というもの。すぐ売り飛ばそうかと思った。
 しかし不思議と100km、200kmと距離が増えるにつれて、これはいいかもしれないという思いがじわじわと強まってきた。
 一目惚れで付きあったけど、すぐにただの性悪パツキンくそめと見切りかけ、しかしそのうち何となくその性格の歪みがなんとなくニッチにかわゆいと思えるボクってオットナーみたいな屈折した愛情というか。


 つねにレーシーな境地に誘われ、前を行くクルマが見えれば抜かずにはいられないAX-1とちがって、このバイク、性格が歪んでいるゆえか、とてもジェントルに走れる。AX-1ではトップギヤでの55km/h巡航はがっくんがっくんして厳しかったが、ハスクSM610は問題なし。前者がまったく粘らないエンジンでひたすら回転を求めてくるのに対して、後者は排気量が大きいせいか、そこそこの粘りはあるものの、伸びと盛り上がりがなく、だら〜っという感じ。
 とはいってもトルクが強大なので、1.5車線のワインディングならせいぜい3000回転、少しタイトな二車線で〜4000回転、ちょっと広めでも〜5000回転・・とまあ、そのあたりまで回せばじゅうぶん野獣的な気分で走れてしまうので、なんとなく愉快なオトナのツーリングという感じ。つねに鬼気迫る三角目走りを強制されるAX-1と違い、とても心がなごむのである。


 ブレンボ社製のブレーキシステムは秀逸。レーシングタイプではない普通の公道版だが、あらゆるシチュエーションで指一本で済む。
 この制動力に対してのフロント・マルゾッキ社製サスも立派な仕事をしている。マルゾッキといえば昔は動かないイメージがあったが、今のは違う。しっかりと踏ん張り、好みに応じたアジャストもある程度は可能だろう。
 キャブのフィーリングは言わずと最高である。インジェクション世代にはない良さがある。標準装備のFCRは高度補正もつくらしい。チョークとホットチョークも付いているが、まだ使ったことはない。


 ハンドルもまた絶妙で、広くもなく狭くもなく。街乗り、渋滞路さえ、かえって楽しいぐらいだ。
 ただエンジン熱がとにかく熱くて疲労するし、ついつい膝がひらいてヤンキー走りになってしまうのが悩みだ。


 一般道でクルマの後ろについての40〜60km/hレンジでの走行はトップかオーバートップで安定。トップ60km/hで2900回転なので、フルタイムでレーシング気分な回転域へと誘われるAX-1と違い、ココロに火がつくには、ワンテンポ、ツーテンポのタイムラグがある。この間(ま)が、余裕というものなのだろう。スウェーデンへの憧れはオトナへの入口なのだ。


 高速道路では90km/h巡航がいいところだろう。いちばん気持ちいいのは80km/hかもしれない。目を三角にしたところで、8ナンバー・クラウンにもカモられるだろうし、そうなると100km/hでも振動と風圧で馬鹿らしい気分に陥る。左車線をのんびりと80km/hで走る、オトナなのである。


 さてコーナリングであるが、モタードというバイクに期待していたよりも、意外に曲がらない印象を持った。
 イメージよりもつねに一本二本、外側にはらむ。
 ハンドルをこじるようなライダー側の積極的な入力や、テールを豪快に流してのコーナリングを前提としているのかもしれないが、しかし公道で一般のライダーが乗るのに、もっと別の味付け方はあるようにも思った。あるいはこのへんがレーサーベースでもなく、かといって純然たるツーリングモデルでもないSM610というバイクの中途半端さなのだろうか。
 タイヤがフロント120/70、リヤ150/60のZレンジラジアル。これがどうもオーバースペックな気がしてならない。
 車重が軽いので、死ぬ気で突っ込んでブレーキングのまま寝かしこまない限り、タイヤを路面に押し付けている安心感が得られない。タイヤが変形しないまま、すーっと路面の表面をなぞっているような不安感がつねにつきまとう。
 タイヤはフロント、リヤともに1サイズずつダウンして、かつTT900GPのようなバイアスタイヤを入れてみようかと思う。そのぐらいが一般道で楽しく走るには、適正な予感。ハスク乗りたちには「あほか。氏ね。その前に腕みがけ」と失笑を買いそうだが、個人的にはまず試してみたいデ・チューンというか、何よりタイヤ代が半分で済む。とにかくこのオートバイク、タイヤの減りが早い。